インバウンド(訪日外国人客)が観光地の将来を左右する時代、開湯1300年の歴史を持つ城崎温泉(兵庫県豊岡市)では、異例の取り組みが進んでいる。予約状況や宿泊客の属性といった個々のデータを、他の旅館や自治体が共同で活用しているのだ。本来なら「企業秘密」とされる情報を、地域全体の観光振興に役立てるため、「公共財」として共有するという発想が、なぜ実現したのか。
データ共有の会議で浮かび上がった夏のインバウンド不振
2026年6月17日午前、JR城崎温泉駅近くの観光センターに、市や旅館組合などでつくる「豊岡観光DX推進協議会」のメンバー約14人が集まった。会議では、夏休みやシルバーウィークの宿泊予約状況、予約客の居住地、前年との増減などが報告された。そこで話題になったのが、夏場のインバウンド不振だった。
「7~8月はもともと海外客が少ないが、『夏の温泉は暑すぎる』という口コミが広がり、状況がさらに悪化している」と指摘したのは、若手経営者らでつくる「城崎温泉旅館経営研究会(二世会)」の芹沢恭輔さん(27)だ。
実験的な施策「温泉を少し涼しくする」が約1カ月で決定
芹沢さんが紹介した夏場の誘客策が、「温泉を少し涼しくする」という実験だった。8月1日から1週間、一部の外湯の温度を約2度下げたり、小さな浴槽を水風呂にしたりする取り組みを予定している。この企画は、4月ごろに若手経営者たちが考案した。大きな反対はなく、約1カ月で実施が決まったという。
「データがあることで課題を共有しやすくなり、新しい取り組みへの理解も得やすい。若手の声を受け止めてくれる土壌があることも大きい」と芹沢さんは話す。
約30の旅館が宿泊データを共同活用、議論の土台に
議論の土台になっているのが、旅館同士で共有している宿泊データだ。約30の旅館が宿泊客数や宿泊日数、国籍などの属性情報を提供し、協議会が集約・分析している。これにより、地域全体の動向をリアルタイムで把握し、課題の早期発見と迅速な対策立案が可能となった。
オーバーツーリズムなどの課題が深刻化する中、社会が潤い続ける観光とは何か。城崎温泉の試みは、データを共有財産として活用することで、持続可能な観光地域づくりを目指す新たなモデルとして注目される。



