高額なタレントマネジメントシステムを導入し、社員の人材評価とスキルシートをクラウドに並べた。だが、いざ役員会や配属会議が始まると「あいつはガッツがある」「あの部署の空気に合わない」というように「勘と経験と社内政治」で人選が決まっていく。
日本の大手企業が幾度となく繰り返してきたこのやりとりに、タレントマネジメント市場を切り替えてきたカオナビ(東京・港区)が、自ら終止符を打とうとしている。同社は「株式の非公開化」(TOB)という極めて重い経営決断を下した。
「タレントインテリジェンス」で目指す変革
目指すのは、データを詰めるだけの管理ツールからの完全転身だ。社内に眠る人材データとAIを融合させ、経営層から現場に至るまでが自ら考え、自信を持って次の行動を決定できる世界の実現を掲げる。
なぜ上場企業という看板を捨ててまで、5年間の集中投資に賭けて出たのか。AI時代に、経営者に残された「本当の仕事」とは何か。代表取締役社長CEOの佐藤寛之氏に、背景の深い組織変革を聞いた。
カオナビは2025年10月に「タレントインテリジェンス」という構想を打ち出した。これはツールにAIを組み込むことで、人事部だけでなく、経営者やマネージャー、現場の社員までもが人材データを公正な判断に生かせるようにする構想だ。4500社以上が使うサービスを、人材システムから意思決定を支えるツールへと変えようとしている。
非公開化で5年間の集中投資へ
そのための投資期間として、カオナビは株式の非公開化を選んだ。この先5年間をAIと人材データを軸に事業を広げる期間と考えている。
タレントマネジメントという言葉が日本で広がってから、すでに10年以上が経つ。企業には社員の評価や異動、スキルなどのデータが溜まってきた。一方で、そのデータを人材育成やキャリア形成にどう生かすかは、企業ごとの課題として残る。可視化されたデータから何を読み取るかは、結局のところ利用者次第だ。カオナビは、そこにAIを組み込もうとしている。
例えば、ある人材をどの部署に配置すればいいのか。また、欠員や新設ポストに対してどのような要件で採用を行うべきか。過去のデータをAIに分析させ、複数の可能性を示す。ただし、AIに最後の判断まで任せるわけではない。
「最後は人間が決めないといけません。ただ、これまで人間の直感に頼ってきた意思決定を、膨大なデータとAI活用によって再現性高く支えられるようになります」(佐藤氏)
AIに求めるのは、正解を出すことではない。人間だけでは見つけにくかった選択肢を増やし、判断材料を提示することだと佐藤氏は強調する。
「勘と経験」に依存しない人事へ
カオナビは、これまでの人事評価や配置決定における「勘と経験」に依存したプロセスを、データとAIの活用によって変革しようとしている。同社は自ら非公開化という決断を下し、この変革に集中投資する期間を確保した。
日本企業の人事慣行に一石を投じるこの動きは、AI時代における人材マネジメントの新たな方向性を示すものとなりそうだ。