カインズ、くらシアのAI投稿支援機能をどう開発したか 生成AIで「自分の声」残す工夫
カインズ、くらシアのAI投稿支援機能をどう開発したか

ホームセンター大手のカインズが運営するWebサイト「くらシア」に、生成AIを活用した「AI投稿サポート」機能が実装された。投稿画面まで到達しながら投稿せずに離脱するユーザーが一定数いるという課題を解決するため、生成AIがユーザーの入力を基に文章を構成する仕組みを導入した。同社はこの開発プロセスを、Google Cloud Next Tokyo(7月30〜31日開催)の講演セッション「生成AIで実現するtoCサイトのリッチ化。カインズが挑む顧客体験の進化」で公開した。

投稿せず離脱するユーザーが一定数存在

くらシアは、「みんなのくらしシア」を由来とする名称で、カインズの商品を使った工作やDIYのアイデアを顧客や社員が共有し合うコミュニティーだ。単なる「商品の口コミ」を書き込む場ではなく、「暮らしの課題を、どの商品を組み合わせて解決したのか」という一人ひとりの工夫を共有する場として運営されている。

しかし、サイトを開設したところ、投稿画面まで来たユーザーの一定数が投稿せずに離脱していることが分かった。くらシアへの投稿は、率直な感想を書けばよい口コミとは異なり、商品を使う際の工夫や発見を一から考える必要がある。その負担が、投稿者の手を止めさせていた。

Pickt横長バナー — Telegram用の共同買い物リストアプリ

この課題は、サービスの魅力と背中合わせだった。独自の工夫が集まることこそ、くらシアの強みだからだ。「この独自性が、投稿者にとっては高い壁になっていた」と、カインズの田中文彦氏(デジタル推進本部 デジタルサービス開発部 部長)は語る。

社内業務の効率化AIを「社外向け」に転用

書き方のテンプレートを置くだけでは、この課題を解けない。田中氏が求めたのは別の仕組みだった。「機械的な代筆ではなく、お客さま自身の工夫の種を生かしたまま、お客さまの言葉で他の方に伝わる形に整える。言語化を半歩手伝ってくれるような仕組みが必要だった」と説明する。

田中氏の目に留まったのが、IT企業のシステムサポート(静岡県浜松市)が開発した生成AIサービス「GEN-STEP」(ジェンステップ)だ。米Googleの生成AI「Gemini」を用い、ECサイトに載せる画像や動画、商品説明文などを生成できる。アパレル業界でいう「ささげ業務」(撮影・採寸・原稿の頭文字を取った言葉)の効率化を主眼とするサービスで、カインズではEC事業部が先行して導入していた。

システムサポートの福田慎司氏(Strategic Development事業本部 BSG事業部)がカインズに持ちかけたのも、当初は社内業務の効率化を想定していた。転機となったのは、GEN-STEPの機能を紹介していたときだった。GEN-STEPを使って、画像を基に説明文が生成される様子を見た田中氏が、くらシアへの応用を思い付いた。ユーザーが写真を投稿しているのだから、その画像をAIに渡せば文章を作れる。社内向けの効率化が、外向けのサービス改善に広がった瞬間だった。

「AIが作った」と感じさせない3つの工夫

もっとも、くらシアへの実装は平たんではなかった。投稿のハードルは下げつつ、ユーザーが思い描いている「自分の声」の体感を損なってはならない。入力は簡単に、生成AIらしさは消す。この両立が必須条件だった。

Pickt記事後バナー — 家族イラスト付きの共同買い物リストアプリ

「(AIで作文が楽になるとはいえ)いかに『AIが作った』という文章が出てきても投稿者は体感しない。投稿者が入力した部分をAIが組み取り、それを最大限生かす文章を構成することにこだわった」と田中氏は語る。試行錯誤は続いた。AIが書く文章は、調整しないと「使ってみてよかった」というレビュー調になりがちだった。雰囲気の調整は、さらに難航した。AIに「フォーマルに書いて」と指定すると、高級ホテルの辞書かと思うほど仰々しい文章が返ってくる。逆に「フレンドリーに」と指定すれば、絵文字だらけのテンションになる。そこでシステムサポートは、実際の投稿データを分析し、違和感のないトーンに仕上げるため、プロンプトを微調整した。

田中氏は「最初、あの仰々しい文章を見たときは『大丈夫かな』と思った。念入りに調整し、最終的にはちょうどいいバランスになった」と振り返る。こうして、くらシアに「AI投稿サポート」を実装した。くらシアのWebサイト上では、このAI機能が「最短1分で投稿完了! AIが投稿案を作成」と案内している。

ユーザーに「3つのポイント」を入力させる仕組み

ユーザーに「3つのポイント」を入力してもらうことで、精度を保つ仕組みにした。1つ目は目的の選択だ。「お悩み解決」「意外な裏技」など、投稿するアイデアの型を選択肢から選ぶ。これにより、くらシアのコンセプトから外れることはほぼなくなったという。2つ目は雰囲気の調整。文章のトーンを「フォーマル」「フレンドリー」などから選べるようにし、投稿者の感覚に近づける。生成AI感が和らぐ効果もあった。3つ目は独自の工夫。最も伝えたいポイントを自分で書いてもらう。ここに投稿者の声が最も反映される。

田中氏が重きを置くのは3つ目だ。ここに自分の言葉を少しでも入れれば、一から書き起こす手間をかけずに、自分が考えたアイデアだという体感が得られる文章を生成できる。この仕組みを支えるシステム構成は、意外なほどシンプルだ。複雑なインフラ管理を排して「Google Cloud」のマネージドサービスを活用している。投稿者の選択・入力をテキスト生成APIを介してGeminiに渡し、生成された文章をAPI経由で受け取る。生成結果などの利用履歴は、データ分析基盤「BigQuery」に蓄積する。福田氏は、今後のUX(ユーザー体験)戦略に生かすためのデータ基盤も見据えた構成だと説明した。

投稿の「質」がアップ 検索結果に載るように

AI投稿サポート機能のリリース後の変化を、田中氏はこう語る。「単に投稿数が増えるだけではなく、文章の質自体が上がって、利用シーンが目に浮かぶような投稿が増えた。読者にとっても『まねできそうだ』とイメージが湧きやすくなったようだ」

Web検索に代わりつつあるAI検索の出力結果や、Googleがユーザーの関心に応じてWebコンテンツを表示する「Google Discover」に投稿が載るケースも出てきた。福田氏も、投稿の質が上がれば購買意欲の喚起につながるとみる。投稿のハードルを下げる施策が「量」から「質」への転換を促した形だ。

見据える先は、さらに広い。田中氏は、AI活用がまだ社内向けにとどまる現状を踏まえてこう語る。「お客さまがAIを使っていることを意識しないくらい、体験に自然に溶け込ませたい。アプリ、Webサイト、店舗でAI活用を実現することで、オンラインとオフラインのギャップをなくす」

同時に、オフラインでは実現しにくいデジタルならではの楽しさも届けたいという。福田氏は「AIを使っていると思わずに、AIが使えている状態になる未来は、もうSF映画の世界ではなく、すぐ先の未来だ」と述べ、講演を締めくくった。