デジタル地域通貨、消費拡大で街活性化も維持コストが壁に
デジタル地域通貨、消費拡大と維持コストの両輪

スマートフォンの専用アプリなどで決済できる地域限定の電子通貨「デジタル地域通貨」が、全国の自治体や商工会議所などで導入されている。地元での消費拡大が期待される一方、維持にかかるコストなどを考慮して導入を見送るケースも出ている。本稿では、そのメリットと課題を両論で掘り下げる。

A論:街に活気、課題解決のツールに

群馬県安中市では、市のデジタル地域通貨「UMECA(ウメカ)」が2024年末に導入された。市特産の「梅」にちなんだ名称で、スマホのアプリや専用カードに現金をチャージすれば、市内200店舗以上で支払いに使用できる。利用に応じてたまるポイントも同様に使える。近くに住む原田三重子さん(70)は「地元を盛り上げようという取り組みに賛同して使い始めた」と話す。

市の人口は約5万2000人。隣には県内最大の商業都市・高崎市がある。ウメカは安中市内での消費拡大とコミュニティーの活性化を図る目的で導入された。子育て支援の給付金支給やボランティア協力者へのポイント配布でも活用され、市の情報もアプリで通知できる。同店店員の高野志穂さん(47)は「ポイント還元キャンペーンもあってお得。薬局で日用品購入などに使っています」と語る。

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ウメカは市民以外も利用でき、2025年3月末時点で4300人が登録。加盟店舗での総決済額は約3億700万円に上る。市政策・デジタル推進課の猿谷正和課長(51)は「近隣の大きな市に流れた買い物客が戻ってきたと感じている。経済効果は出ているのではないか」と手応えを語る。

地元経済の活性化だけでなく、地域の課題解決に生かすケースもある。静岡県西伊豆町は、コロナ禍で減った観光客の獲得と漁師不足による漁獲量減少という課題に対処しようと、デジタル地域通貨「サンセットコイン」で「ツッテ西伊豆」という取り組みを2020年9月に始めた。遊漁船の釣り客から魚をコインで買い取る仕組みで、2025年末までに約670件、計約250万円分を買い取った。魚は地元の産直売り場で販売される。特産のイセエビを食べてしまうウツボもコインと交換でき、水産資源を守る活動にもつなげている。町の漁獲量は2018年度の約2595トンから2024年度は約62トンまで減少。町産業振興課の土屋佑斗さん(38)は「漁獲量が低迷する中、地域課題解決のツールの一つになっています。魚を売って得たコインは地元の土産物店などで使われています」と説明する。

東京経済大の栗田健一准教授(コミュニティー経済学)は「地域通貨は地域に根ざした様々な取り組みに活用できる。デジタル化で購買データや人流データを収集でき、地域経済の活性化に役立てることもできる」とメリットを示す。

B論:高い費用、薄い効果…不正利用対策も重荷

デジタル地域通貨は決済システムなどで多額の初期費用がかかり、維持管理や悪用を防ぐセキュリティー対策も求められる。コストに見合うだけの利用者獲得も簡単ではなく、導入を見送る自治体は少なくない。

神奈川県小田原市が2024年3月に運用を始めた「ブラポ」は、利用者や利用できる店舗の数が伸び悩み、2026年3月に終了した。専用アプリのダウンロードは2024年度末までに約3600件あったが、2025年度は約600件増と低調。市デジタル推進課の担当者は「最初はお得感で始める人が多かったが、全国共通の大手電子決済サービスも頻繁にキャンペーンを打ち出すので『利用するメリットが少ない』と判断されたようだ」と話す。

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滋賀県彦根市は清掃や防犯パトロールなどの地域活動に対するお礼に紙の地域通貨「彦(げん)」を交付していたが、流通が一部の団体に固定化され、印刷費などもかさむため、デジタル地域通貨を検討。しかし初期費用だけで従来の年間事業規模(5百数十万円)の3~4倍ほどに達し、維持費も年間数百万円かかるとわかり、断念した。紙も廃止し、2026年度から地域貢献活動を行う団体に対し、設立時などに補助金を交付する制度を導入する。市まちづくり推進課の担当者は「自主的な活動に直接アプローチできるようにした」と説明する。

導入には様々な法律も絡む。発行主体が自治体ではなく委託業者の場合、資金決済法で事前の登録や届け出義務が生じる。桜美林大の木内卓准教授(金融論)は「法規制の有無がよく分からないまま検討されているケースもあるのでは」と懸念する。

不正利用対策も避けられない。他人のクレジットカード情報を悪用し、前橋市のデジタル地域通貨約11万円分をチャージした疑いで、ベトナム人2人が群馬県警に2025年に逮捕された。手軽に登録してもらうため簡易的な身元確認で発行できるようにしたアカウントが使われていた。さいたま市の「さいコイン」では、チャージして利用する場合、2段階認証に加えてマイナンバーカードの認証も取り入れるなど、安全性を高めている。

専修大の泉留維教授(地域通貨論)は「コストがさらにかかるが安全対策を強化する必要が出てきている」とし、「地域の独自色を出して差別化を図るとともに、住民が利用するメリットを実感できる取り組みが求められる」と指摘する。

5年で5倍、約400種類に

地域通貨は1980年代半ば、地域経済の活性化や住民同士の支え合いを促す取り組みとして欧米で導入が始まった。日本でも1990年代後半から2000年代にかけて主に紙を使った地域通貨が広まり、ピーク時の2005年頃には数百種類以上が発行された。日本でブームの火付け役の一つになったのが、1999年に誕生した滋賀県草津市の地域通貨「おうみ」である。ボランティア活動の対価として紙券で受け取れ、公共施設の利用料などに使用できた。

その後、紙の地域通貨は集計作業に労力がかかるなどの理由から徐々に減少。一部で電子決済機能を持つデジタル地域通貨も登場したが、決済処理を行う端末の小型化が進まずに根付かなかった。デジタル地域通貨の普及を後押ししたのが、複数のコンピューターで取引データを記録する「ブロックチェーン」技術である。安全性の高い取引が可能となり、2010年代から利用が広がった。国内では岐阜県飛騨地域で2017年に登場した「さるぼぼコイン」がその先駆けとされる。

決済端末になるスマートフォンの普及や、コロナ禍での非接触決済の推奨、国によるデジタル技術導入への補助金も追い風となり、デジタル地域通貨が次々に生まれた。専修大の泉留維教授によると、2025年は約400種類に上り、5年間で約5倍に増えた。しかし、「多額の運営経費などがネックで、近年は増加の動きが一段落した」とみている。