米Perplexityは8月25日(現地時間)、AIエージェント「Perplexity Computer」をユーザーの手元のハードウェアで動作させる「Portable Computer」を発表した。NVIDIAと共同開発したローカルファースト型のAIエージェント・プラットフォーム(スタック)で、まずNVIDIAの「DGX Spark」向けにLinux版を提供し、RTX GPU搭載PCなどへ対応を広げる予定である。
ローカルで完結するAIエージェント基盤
Portable Computerでは、AIモデルだけでなく、処理を統括するオーケストレーター、プランナー、ツールルーター、スケジューラー、タスクキュー、ローカル検索インデックスなどを端末上で動かす。ファイルの分析や複数文書の統合、コードや各種ツールを使った複雑な作業を、クラウドへデータを送らずに実行できる。ローカルで完結した処理についてはPerplexityの利用クレジットを消費しない。
一方、すべての処理をローカルに閉じるわけではない。最新のWeb情報や、より高度な推論が必要になった場合には、クラウド上のAIモデルへ処理の一部を委ねることができる。端末外へ情報を送る必要がある場合はユーザーに許可を求め、承認された情報のみを送信する。クラウド側のAIモデルはテキストによる助言を返すだけで、ローカルのファイルやツールには直接アクセスしない。アプリコネクタを介して、Google Drive、Gmail、Slack、GitHubなどとも接続できる。
搭載モデルと対応端末
ローカルAIモデルには「Qwen 3.8 27B」と、それをPerplexityが追加学習した「PPLX 27B」を用意した。今後はNVIDIAの30Bモデル「Nemotron 3.5 Lightning」も追加する予定である。音声入力には「Nemotron 3.5 ASR Model」を利用し、音声の文字起こしからファイル操作までローカルで完結できるとしている。
現時点で、DGX Sparkを対応端末として、Perplexity ProとMaxのユーザーに提供している。DGX SparkはGrace Blackwell GB10プラットフォームを採用し、20コアArm CPUとNVIDIA GPU、128GBのユニファイドメモリーを搭載するデスクトップ型AIコンピューターである。Perplexityによると、RTX GPUを搭載するPCにも対応を広げるほか、Windows版も提供する予定である。
ハーネス設計が性能を左右
Portable Computerで注目されるのが、NVIDIAとの共同開発である。単にNVIDIA GPU上でAIモデルを動かすだけではなく、PerplexityはAIエージェントを構成するソフトウェア全体をローカル環境向けに最適化している。一般的なローカルAI環境では、AIモデルに加え、推論エンジン、ツール連携、ファイルアクセス、コード実行環境などを組み合わせて構築する必要がある。Portable Computerはこれらを一体化し、AIモデルを実際の作業へ結びつける「agent harness」まで含めて提供する。
harness(以下ハーネス)とは、AIモデルに対してどの情報を渡すか、どのツールを使わせるか、作業状態をどう記憶するか、失敗時にどうやり直すかといった仕組みをまとめた実行基盤である。AIエージェントではモデル単体の能力だけではなく、それを取り巻くハーネスの設計がエージェントの性能に大きく影響するという見方が業界で強まりつつある。例えば、NVIDIAが8月21日に公開した長期自律型エージェントアーキテクチャの研究プロジェクトのレポートによると、独自のエージェント基盤「Agentic Variation Operators(AVO)」を用いることで、AIエージェントの学習力と推論力を測定する「ARC-AGI-3」においてClaude Opus 5のスコアを大幅に押し上げることができた。
AVOは長期的な記憶機能と、進捗が停滞した際にエージェントを軌道修正する「supervisor」機構を備えている。これによりARC-AGI-3の公開セットを完全攻略し、100.00のRHAEスコアを達成した。同一条件ではないが、ARC Prizeが別途実施したClaude Opus 5のモデル評価で、ハーネスなしで動かした場合のスコアは30%程度にとどまった。NVIDIAは、長期的な多段階タスクのAIエージェント能力はモデルだけで決まるものではなく、メモリー、ツール、フィードバック、失敗からの復帰などを含むシステム全体によって左右されると説明している。
ローカルモデルの性能を引き出す結果
Perplexityが公開した技術検証によると、日常的な知識労働タスクからなる独自評価セット「Local Knowledge Work Bench」において、DGX Sparkで動作するPortable Computerは82.6%だった。同じモデルをオープンソースの汎用ハーネス「Pi」で動かした場合は77.6%、「Hermes」では74.0%となった。さらに、追加学習済みのPPLX 27BとPortable Computerを組み合わせると85.4%まで上昇した。
Web調査能力を測る「BrowseComp」では、Computerが66.7%、Piが50.2%、Hermesが43.9%だった。Portable ComputerはPiと比べて処理時間を51%、使用トークン数を70%削減したという。PDFやグラフ、表などを含む文書のマルチモーダル理解を測る「ParseBench-100」では、Portable Computerが65.1%、Hermesが34.6%、Piが13.9%だった。
Perplexityによると、PiやHermesのような汎用ハーネスは幅広いサイズや種類のモデルに対応できる一方、必ずしも端末上で動く比較的小型のモデル向けに最適化されているわけではない。同社はシステムプロンプトや常時利用するツールを絞り込み、必要な機能だけをスキルとして読み込むことで、限られたコンテキストを効率的に利用する設計を採用した。
AIエージェントのローカル実行には、機密データを端末内に保持しやすいことに加え、推論に利用クレジットが発生しないという利点がある。エージェントが長時間にわたって大量の処理を行うようになれば、日常的な処理をローカルで実行し、高度な推論だけをクラウドへ委ねる使い分けが重要になる。
Perplexityは、Portable Computerがクラウドモデルを利用するケースの検証データも公開している。ローカルモデルが対応しきれない高度なコーディング課題「Terminal Bench 2.1」で、ローカルのQwen 3.8 27B単体のスコアが59.6%にとどまる一方、クラウドのClaude Opus 5を組み合わせると73.0%まで上昇したという。推定APIコストは1タスクあたり0.415ドルだった。Claude Opus 5だけで処理した場合はスコアが82.4%で、APIコストは0.65ドルだったという。



