政府は7月21日、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を閣議決定した。この計画には「AI駆動型国営」という言葉が登場し、注目を集めている。本稿では、この新たな方向性と、現在も自治体の現場を悩ませる「自治体システム標準化」の到達点について考察する。
「AI駆動型国営」とは何か
重点計画では、これまでの「DX」に並んで「AX」という言葉が前面に押し出されている。AXとは「AIトランスフォーメーション」のことで、計画では「あらゆる組織で、AIを前提として意思決定や業務の進め方を根底から見直すこと」と定義されている。
DXが「デジタル技術を活用して業務や組織を変革する」ことだとすれば、AXはさらに一歩進んで「AIが前提となった世界で、組織をどう動かすか」を出発点とする。従来のデジタル化・情報化は「電動工具」を導入して個人の作業効率を上げること、DXは「電動工具やデジタルデータ」がある前提で、現場の作業手順や組織の動線を組み直すこと、AXは「工作作業を自動化し、人間は別の業務や新たな価値発揮に時間を注ぐ」ことと整理できる。
「自治体システム標準化」の現状と課題
重点計画では、「自治体のAX/DX基盤の高度化・強化」を掲げ、その中で「標準化に係るこれまでの取組の課題の検証・検証」という項目を明記している。筆者は、この点に強く関心を持った。
2021年5月に「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」が公布され、全国の自治体は国の定める標準仕様に準拠したシステムを利用し、原則としてガバメントクラウド上で運用する姿が描かれた。そして2026年3月末時点で、対象システムのうち全体の約7割のシステムが標準化移行を完了したとされている。数字を好意的に受け取れば、標準化は一つの節目を迎えたことになる。
しかし、筆者の実感は異なる。標準準拠システムへの移行を終えた自治体でも、現場で漏れるのは「移行は終わったが、本来期待していた効果は見えない」「むしろ悪化した」といった声だ。重点計画は、この点について「標準化に係るこれまでの取組の課題の検証・検証」という項目を明記し、次のステップとしてAIエージェントを利用した「自己完結型」「提案型」行政サービスの実現を掲げている。全国の自治体は、成功体験を得ることなく標準化のゴールをさらに遠くに動かされたようにも見える。
「自己完結型」「提案型」行政サービスへの期待
重点計画が描く次の段階を整理すると、次のようになる。標準化によってデータ構造が共通化されたことを「前提」として、自治体向けソフトウェアを「公共SaaS」として提供する環境整備を進める。ベンダーは国が用意する共通開発基盤を活用することで、効率的に公共SaaSを開発できる。自治体はソフトウェアを個別に導入してクラウド環境を管理する負担が減り、必要な機能を選んで使うだけで済むようになる。
さらに、住民と行政の接点(フロントヤード)と業務システム(バックヤード)の間でデータが自動連携され、出生や死亡などのライフイベント手続きがワンストップ化される。給付や申請など制度の「Rules as Code」推進も打ち出している。法律制度のルールをコード化し、システムで自動判定できるようにする取り組みだ。
重点計画では、2030年代半ばに目指す姿として「一人ひとりの住民が、AIエージェントの助けを得て、必要な時に必要な支援を手続負担なく享受できる」社会が描かれている。同時に、人材不足の深刻化に直面する自治体にとっても「少人数の職員でも高品質な行政サービスを持続的に提供できる」状態を目指すとしている。
この2つの目標は、現在の行政の在り方のままではトレードオフになりかねない。現在のような複雑で一貫性のない法律制度では、行政事務に必要なプロセスを簡素化することができない。その状態で住民にとっての手続負担を減らすということは、その負担が単に自治体職員側に転嫁される構造になりがちだ。このトレードオフを解消する手段としてAIエージェントへの期待が高まっているように見える。



