5G時代のキーデバイス、GaNパワー半導体の市場が急拡大
5G時代のキーデバイス、GaNパワー半導体市場急拡大

5G(第5世代移動通信システム)の本格普及を背景に、次世代パワー半導体であるGaN(窒化ガリウム)の需要が急拡大している。従来のシリコン製パワー半導体に比べ、高周波・高効率・高耐圧という特性を持つGaNは、5G基地局や急速充電器、さらにはデータセンターの電源など、幅広い分野で採用が進んでいる。

GaN市場、2027年に60億ドルへ

市場調査会社のYole Développementによると、GaNパワー半導体の市場規模は2021年の約11億ドルから、2027年には約60億ドルに拡大すると予測されている。これは年平均成長率(CAGR)が約30%という高い成長率を示している。特に、5G基地局向けが全体の約40%を占めると見られ、次いで民生用急速充電器が約25%を占める見通しだ。

「5G基地局では、従来のシリコン製トランジスタでは対応が難しかった高周波帯での動作が求められる。GaNはその要件を満たすだけでなく、省電力性能にも優れている」と、業界関係者は指摘する。実際、米国や中国、韓国などの通信事業者が5G基地局へのGaN採用を加速させており、需要を押し上げている。

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急速充電器でもGaNが主流に

民生分野では、スマートフォンやノートパソコン向けの急速充電器でGaNの採用が急増している。従来のシリコンベースの充電器に比べ、GaNを使うことで充電器のサイズを約半分に小型化できる上、発熱も抑えられる。これにより、各メーカーが競ってGaN対応急速充電器を発売している。

「GaN充電器は、従来のシリコン充電器と比較して、同じ出力で体積を40%以上削減できる。また、電力変換効率も95%以上と高い」と、ある半導体メーカーの技術者は説明する。市場では、AnkerやBelkinなどのアクセサリーメーカーに加え、アップルやサムスンなどのスマートフォンメーカーもGaN充電器の採用を検討しているとの報道もある。

サプライチェーンの課題と対応

需要の急増に伴い、GaNパワー半導体の供給体制の強化が急務となっている。現在、GaNパワー半導体の主要プレーヤーは、米国のNavitas SemiconductorやTransphorm、カナダのGaN Systems、日本のロームなどが挙げられる。しかし、製造プロセスが複雑で、歩留まりの改善が課題となっている。

「GaNデバイスの製造には、シリコンとは異なるエピタキシャル成長技術が必要であり、特に大口径ウェハでの品質管理が難しい」と、業界アナリストは指摘する。この課題に対応するため、各社は6インチから8インチウェハへの移行を進めており、コスト低減と量産化を目指している。

また、中国政府が半導体の自給率向上を掲げていることも、市場に影響を与えている。中国国内では、複数のGaN関連スタートアップが立ち上がっており、政府の補助金を受けて量産技術の開発を進めている。これにより、中長期的には供給過剰のリスクも指摘されている。

自動車や産業機器への展開も期待

GaNパワー半導体の応用範囲は、通信機器や民生機器にとどまらない。電気自動車(EV)のインバーターやDC-DCコンバーター、産業用ロボットのサーボモーター駆動など、高効率な電力変換が求められる分野での採用が期待されている。

「EV向けでは、GaNを使うことでインバーターの効率が向上し、航続距離の延長に貢献できる。また、冷却システムの簡略化にもつながる」と、自動車部品メーカーの技術者は語る。ただし、自動車向けには信頼性やコストのハードルが高く、実用化にはまだ時間がかかるとの見方もある。

一方で、産業機器向けでは、既に一部のサーバー電源や無線電力伝送システムでGaNの採用が始まっている。データセンターの電力消費削減にも寄与するため、クラウドサービス事業者からの関心も高い。

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競合技術との比較

GaNと同様に次世代パワー半導体として注目されるSiC(炭化ケイ素)も、高耐圧・高効率の特性を持つ。両者は用途によって使い分けられるが、GaNは高周波特性に優れ、SiCは高耐圧・大電流に優れるとされる。市場規模では、SiCが先行しているものの、GaNの成長率はそれを上回ると予測されている。

「GaNとSiCは競合ではなく、補完関係にある。5G基地局のように高周波が必要な分野ではGaNが、EVのインバーターのように高耐圧が必要な分野ではSiCが適している」と、半導体業界の専門家は分析する。両市場とも今後大きく拡大すると見られ、総合的なパワー半導体市場は2030年には300億ドルを超えるとの予測もある。

日本の存在感と今後の課題

日本は、GaNパワー半導体の研究開発において世界をリードしてきた。ロームやパナソニック、東芝などが早期から取り組んでおり、特にロームはSiCとGaNの両方で量産体制を整えている。しかし、近年は米国や中国のスタートアップが台頭しており、競争は激化している。

「日本企業は技術力では優れているが、マーケティングやビジネスモデルで後れを取っている。また、国内市場だけでは需要が限られるため、海外展開が必須だ」と、業界関係者は指摘する。政府も半導体戦略の一環として、GaNを含む次世代半導体の支援を強化しており、官民連携での競争力強化が求められている。