スポーツの世界は、どうにも縦社会だ。かく言う記者も子どもの頃は運動部に所属し、汗を流してきた。だが、あの「先輩の言うことは絶対」という独特の空気が苦手だった。後輩の前ではキツネのように目をつり上げている先輩が、より高学年の先輩に対しては、えびす様のように破顔する。そうして「縦社会」にすっかり嫌気がさした記者は、いつしかスポーツをすっぱりやめてしまった。
孤独と闘った主将
そんな記者が、うだるような暑さの中、7月に行われた夏の高校野球島根大会で一人、忘れられない選手に出会った。江津工の主将、福田礼大さん(3年)だ。
福田さんの高校野球生活は、孤独との闘いだった。同学年の部員がおらず、1、2年生の頃は走り込みで先頭を行く先輩たちの中で自分だけ取り残された。「チームの足を引っ張っている」と自分を責めたが、愚痴を言える同期はどこにもいない。家族に「やめたい」と吐露したことも一度や二度ではなかったという。
「威張らない」道を選んで
そんな葛藤を乗り越え、主将に指名された時、福田さんが選んだのは「威張らない」道だった。昔から「縦社会が苦手」で、先頭に立って引っ張るタイプでもないと自覚していた福田さんは、あえて後輩と「友達感覚」でフランクに接することにした。厳しい上下関係をなくし、笑顔で話しかけ、後輩たちが伸び伸びとプレーできる環境を作る。それが、唯一の3年生としての工夫だった。
その姿勢は、最後の夏となった前年覇者・開星との2回戦でも輝いていた。チームは五回コールド負けに終わったが、福田さんはサードのポジションから誰よりも大きな声を張り上げ続けた。四回、1年生センターがダイビングキャッチを見せた時も、福田さんはサードから「ナイスセンター!」「最高や!」と笑顔で後輩をたたえていた。
指導者が語った学び
試合終了後、球場の外での「ラストミーティング」。福田さんを「なぜか愛される人柄」と評していた藤原隆志監督は部員たちにこう語りかけていた。「福田君は人を引っ張るのはすごく苦手。だけど笑顔ですごく人に好かれた。欠点があるからダメではなく、長所を伸ばすこと。それをフクちゃんを通して学んだ」
自分の個性を受け入れ、自分らしい形でチームに貢献する。そして指導者や後輩もまた、その人らしさを尊重して受け入れる。福田さんは、「スポーツの世界は縦社会」という記者の偏見を、心地よく打ち砕いてくれた。
卒業後は医療系の道へ進み、人の役に立つ仕事を目指すという。グラウンドで育んだその柔らかく温かなリーダーシップは、次の舞台でもきっと多くの人を救うはずだ。新たな一歩を踏み出す彼に、心からのエールを送りたい。(豊島瞬)



