ベルギー1部リーグのシント=トロイデンVV(STVV)は、2017年にDMMが経営権を買収して以降、W杯日本代表に7人もの選手を送り出す育成クラブへと変貌を遂げた。鈴木彩艶(シント=トロイデン)や谷口彰悟らがその例だ。この成功の背景には、日本企業ならではのビジネスモデルと、現地の懐疑を乗り越えた経営戦略がある。
「0円移籍」からの脱却を目指した買収劇
DMMの緒方悠氏(サッカー選手としての海外経験を持つ)は、日本サッカー界の課題に共感しつつ、海外サッカークラブ運営のビジネス可能性に着目した。「『0円移籍』で日本の選手に価値がつかないまま欧州のリーグへ移籍するなら、日本企業が欧州でサッカークラブを経営していれば、優秀な日本人選手を安価で獲得できます。そして、選手がステップアップして、その価値を多くのスカウトが知ることになれば、移籍金で収益を得られる。そのビジネスモデルは成立すると思いました」と緒方氏は振り返る。
緒方氏はすぐにDMM会長の亀山敬司氏に相談したが、当初は「お前がサッカーが好きなだけだろう」と一蹴された。しかし、欧州クラブ所有のビジネス価値と日本サッカー界への変革可能性を繰り返し説明し、説得に成功した。
ベルギーを選んだ理由と買収交渉の難航
買収先候補はベルギーかポルトガル。外国人選手の試合参加制限が比較的緩いことが理由だ。ポルトガルは過去に他企業の買収失敗例があったため、ベルギーに絞った。緒方氏は「ベルギーのあるチームと交渉しましたが、オーナーから『まずマイノリティ出資、信頼できたら譲る』と言われました。しかし、マジョリティ(経営権)がなければ自分たちのやりたいことは実現できません。交渉を白紙に戻し、1部リーグに絞って買収先を探し続けました」と語る。
その1〜2カ月後、STVVと出会い、幾度かの交渉を経て2017年11月に経営権を買収。2018年1月、立石氏がCEOに就任し、クラブ経営全般を担当することになった。その際、立石氏は亀山会長と「赤字を出さない」という約束を交わした。
現地の懐疑を乗り越えた経営戦略
STVVの本拠地はベルギー東部リンブルフ州の人口約4万人の小都市シント=トロイデン。立石氏は数名の日本人スタッフと共に現地に渡った。当時、ベルギー1部リーグ16クラブ中、外資資本が入ったクラブはわずか3クラブだった。「サッカーの本場である欧州の人々にとって、クラブはとても大事な存在です。それをアジア人がやってきて買収して経営する。周囲から懐疑の目で見られていることを強く感じました。そこで、まずは経営基盤を整えて財務的に破綻しないこと。そして、安定して1部リーグにいる状態を目指そうと考えました」と立石氏は述べる。
この戦略は功を奏し、STVVは現在も1部リーグに定着。日本人選手の移籍金収入も生み出している。鈴木彩艶や谷口彰悟らW杯代表7人を輩出した実績は、日本企業によるクラブ買収の成功例として注目されている。



