日本初開催となる愛知・名古屋アジアパラ競技大会(読売新聞社協賛)が18日に開幕する。活躍が期待されるアスリートが自身の言葉で競技への思いなどを語る。陸上男子でバイエル薬品所属の伊藤智也選手(63)=三重県鈴鹿市=は、自身の競技生活を「車いす障害者の基礎研究」と位置づけ、アジアパラ大会でチームの理論を実証したいと語った。
現役復帰のきっかけはサイバスロン
伊藤選手は2012年のロンドン・パラリンピック後に一度現役を引退した。4年後の16年10月、スイスで電動車いすなどの技術の高さを競う国際大会「サイバスロン」が初めて開催され、和歌山大が開発した階段や凸凹道などを走る「パワード車いす」のパイロットとして参加した。
その際、工業デザイン会社「RDS」の杉原行里(あんり)社長と出会った。杉原社長は「年老いても正しいフォームとマシンで走れば戦える。僕が世界一の競技用車いすを作るので、もう一回やりましょうよ」と伊藤選手を誘った。最初は冗談かと思ったが、数か月後に杉原社長が「本気でやりましょう」と計画を説明し、50歳超えで自己ベストが出るなら面白いと感じ、現役復帰を決めた。
チームの理論を体で実証
車いす陸上は元々、金メダルを取ろうという目標があったわけではなく、健康寿命を延ばすために始めた。RDSとタッグを組むようになってからは、自身の競技生活を車いす障害者の基礎研究だと考えるようになったという。「高齢化が進む現代社会に、障害者で車いすに乗って生活する自分が何か還元出来ることがあるはずだと思っています」と語る。
チームはマシンの「開発チーム」と走行フォームなどの「研究チーム」の二つに分かれている。速度が出しにくいと感じたら、室内練習用に固定している車いすレーサーを使ってフォームを修正する。練習の様子を映像で撮影し、自分が感じる走りの「ずれ」を洗い出す。集めたデータや研究結果をもとに、細かい腕の角度など理想のフォームを体にたたき込む。
自己ベスト更新とアジアパラへの意気込み
東京パラが行われた2021年から昨年まで毎年のように自己ベストを更新できたのは、チームの理論が正しかったことを裏付けていると伊藤選手は話す。「我ながら素晴らしい成果です」と振り返る。今年は自己ベストをまだ更新できていないが、「積み上げてきたチームの成果を正確かつ最高の形でアジアパラ大会で表現できるよう、最後まで練習に励みます」と語った。
アジアパラ大会の出場予定種目は男子最年長で、若手の手本となる存在だ。日本パラ陸連の鈴木徹強化委員長は「智也さんには現役時代から勝負へのこだわりなど多くのことを学ばせてもらっている。今回のアジアパラ大会の日本選手団男子最年長だが、2年後のロサンゼルス・パラリンピックも目指しているはず。若手選手は智也さんらベテランを手本に戦ってほしい。それが日本全体のレベルアップにつながる」と期待を寄せる。