滋賀県長浜市余呉町上丹生にある「子ども自立の郷ウォームアップスクールここから」は、旧丹生小学校を活用した不登校児向けの寄宿施設だ。2006年6月、当初予定から2か月遅れて運営を開始した。遅れの原因は地元住民の反対だったが、余呉町(現長浜市)との無償賃貸契約を結び、ようやく第一歩を踏み出した。住民への最初の説明会から3か月が経過していた。
住民の厳しい条件
反対していた住民が出した条件はこうだった。「これから3年間、子どもたちや指導員を見させてもらう。大丈夫と判断したら住民として迎える」。一見厳しい条件だが、理事長の唐子恵子(70)は運営ができる喜びの方が大きかった。さっそく校舎の改修に着手。校長室をカウンセリングルームに、調理室にキッチンと風呂を整備した。玄関には100円ショップで買ったボードに太文字で書いた看板を掲げた。間もなく、最初の受け入れ生徒となる高校1年生の男の子が入所した。
毎朝の挨拶から始まった交流
唐子は毎朝、運動場でグラウンドゴルフを楽しむ20人ほどの住民に「おはようございます」と挨拶するのを日課とした。生徒たちを連れて行くこともあった。無視されても根気強く続けた。すると、夜中に頼んでもいない米や野菜が玄関前に置かれるようになった。ある夜、礼を言おうと待っていた唐子は、野菜を置いて帰ろうとする人を追いかけて「ありがとうございます」と声を掛けた。近くに住む男性だった。男性は唐子の顔を見ると「昼間会ってもあいさつせんといてな」とそそくさと消えていった。本当は理解してくれている人もいるんだと自信になった。
3年後の認証
運営開始から3年が過ぎ、「ここから」からは5人が巣立っていた。そんな時、住民の集まりに呼び出された。向かうと住民がずらりと顔をそろえていた。「先生、3年間よう見せてもらった。今日をもって認める。その証しで一緒に酒を飲むぞ」と告げられた。唐子は「えー」と驚いたが、地域のしきたりなんだと、並べてあった一升瓶3本をみんなで空けた。
地域に根ざした活動
「ここから」は、陶芸教室やサロンを定期的に開き、地域住民に旧校舎を開放している。2014年からは地域住民を招いた花見やバーベキュー、夏祭りを開催。冬には地域のクリスマス会に参加し、子どもたちとボランティア指導員が踊りや歌を披露する。住民と子どもたちの交流は余呉の日常になった。



