経済協力開発機構(OECD)が実施する「国際学習到達度調査(PISA)」のデータによると、日本の15歳の読解力平均スコアは2000年の522点から2022年には516点に減少している。数学リテラシーも2000年の557点から2003年には534点に急落し、その後も2018年527点、2022年536点と低空飛行が続いている。こうした数値は、現代の学生の学力が過去と比べて停滞ないし低下している可能性を示唆している。
学習環境の改善と学力低下の逆説
偏差値35から東京大学に合格した経験を持つ作家で、カルペ・ディエム代表の西岡壱誠氏は、著書『子どもの地頭が育つ後悔しない子育て』(総合法令)の中で、現代の教育環境の変化と学力の関係について分析している。西岡氏は「子どもたちの学習環境は、ここ数十年で劇的に改善され、個人間や地域間の学力格差は解消されているように感じるが、全体としては昔の中高生のほうが学力は高かった」と指摘する。
現代の学習環境は、スマートフォン一つで知りたい情報が瞬時に手に入り、AIによる自動解説、動画学習、暗記アプリ、オンライン家庭教師など、かつてないほど豊かで便利なものとなっている。教材はフルカラーで図解が豊富であり、スタディサプリのような授業動画も充実している。しかし、こうした「過保護学習」とも呼べる環境が、かえって子どもの「考える力」を奪っている可能性があると西岡氏は警鐘を鳴らす。
過保護学習がもたらすリスク
西岡氏は、現代の教育サービスを「便利すぎてバカになる」リスクと表現する。かつては、都市部と地方、進学校と非進学校、家庭の経済状況によって教育の質に大きな格差があった。都市部では頻繁に模試が行われ、塾や予備校が豊富に存在し、進学校には受験に強い教師や大学進学情報が揃っていた。一方、地方や過疎地では教材や情報が限られ、塾が近くになく、経済的理由で通えない家庭も多かった。
しかし、現在では教育の「スタートライン」は大幅に均等化されたものの、学習のプロセスそのものが変化している。西岡氏は「調べて覚える」「考えて整理する」時間が消滅しつつあると指摘。参考書を例に挙げ、昔の参考書は文字が多く、自分で図解を書き込んだり、要点を整理する必要があったが、現在の参考書は最初からフルカラーで図解が完備されており、わからない部分は動画で解説を見ることができる。この「便利さ」が、自分で考える機会を奪い、結果として学力低下につながっているという。
植物に水をやりすぎると根腐れする
西岡氏は比喩を用いて「植物に水をやりすぎると根腐れして枯れる」と表現し、過度な教育支援が子どもの成長を妨げる危険性を指摘する。学習環境の充実は確かに学びの格差を縮小したが、その一方で、子どもが自ら困難に立ち向かい、試行錯誤する経験を奪っている可能性がある。PISAの結果が示す数値は、こうした懸念を裏付けるものと言えるだろう。
学力低下の背景と今後の課題
西岡氏は、科目や調査対象によって結果が大きく変わるため、一概に「今の学生のほうが賢くない」と断言することはできないとしながらも、全体的な傾向として現代の学生の学力が低下している面があることは事実だと述べている。教育のデジタル化が進む中で、単なる情報提供ではなく、子どもの「地頭」を鍛えるための教育のあり方が改めて問われている。
本稿は、西岡壱誠『子どもの地頭が育つ後悔しない子育て』(総合法令)の一部を再編集したものである。同書では、現代の教育環境の光と影を詳細に分析し、後悔しない子育てのための具体的な方法が提案されている。



