神戸市にある滝川中学校・高等学校(神戸市)の「医進選抜」コースが共学化から3年目を迎えた。医師・医療人の輩出を目指す同コースでは、男子校時代からの蓄積に加え、医療関連の体験学習や大学入試を意識した実戦的な「滝川メディカルゼミ」、医療倫理を身に付けるための「メディカル探究学習」など、カリキュラムの充実化が進められている。共学1期生の男女中3生に同コースでの学びについて聞いた。
多様な現場を訪ね「チーム医療」への理解を深める
「医進選抜」コースの前身の「医進」コースは2004年、将来の医師・医療人を目指す生徒のために、最難関医学系大学・学部への進学を目標とする中高一貫コースとして設置された。22年度には「医進選抜」「Science Global一貫」「ミライ探究一貫」という現在の3コースが整った。24年度に「医進選抜」コースを含む一部コースが共学化され、その1期生である中3生180人中33人が「医進選抜」コースに在籍している。
高2の担任を務める島田茂樹教諭は、「医進選抜」コース設立の目的について「診察室でパソコン画面を見てばかりいるのではなく、患者の方を向いて診察してくれる医師を育てて世に送り出したいというのが出発点でした」と語る。
「医進選抜」コースでは、中1~中3の「基礎力養成期」、高1の「単元別学習完成期」、高2の「単元別応用力養成期」、高3の「実践力強化期」の4ステージで、英語力にウェートを置いた高い学力の養成を行う。同時に、豊富な校外体験学習で人間性を高め、医師に必要な使命感や倫理観を養っていくのが特徴だ。
医療現場や研究機関を訪れる校外学習
3コース制初年度の22年度は、まず身近な自然に親しむため、近隣海岸での潮干狩りや、コウノトリの生息地・玄武洞公園(兵庫県豊岡市)の見学を行った。そこから、学習内容を広げて兵庫県淡路市の「北淡震災記念公園 野島断層保存館」での防災学習、医療専門学校に出向いての救命救急実習などを実施。
学年が進むにつれて医療に関連する体験学習を内容の中心に据えていき、24年には中3生が慈慶医療科学大学で、人間の心臓の大きさに近い豚の心臓に触れる実習を、25年には、高1生が神戸大学の医学部医療創成工学科を訪れ、医学部と工学部の教授による講義を受けた。ほかにも、製薬会社、医療機器メーカー、へき地医療現場(沖縄県・伊江島)などへ、見学先を広げていった。
島田教諭によると、こうした多様な校外体験学習の狙いは、医療分野には多様な職種・業種があることをじかに知ってもらうことにある。医療人になるうえでは「チーム医療」への理解を深めることが重要だからだという。
「チーム医療は、外科医、内科医、麻酔科医、看護師、薬剤師など、多くの職種の連携で成り立ちます。外科医が頂点にいる『ピラミッド形』ではなく、患者が中央にいて、その周りにさまざまな医療スタッフが対等な立場で患者をフォローする『ドーナツ形』だという意識を持ってもらうことを心掛けています」
なお、校外学習を重ねる中で獣医師に興味を持ち、自ら夏休みに牧場へインターンに行く生徒も出てきたという。「話して聞かせるよりも、実際に現場に行き、見たり経験したりする中で、自分のできること、できそうなことを見つけてほしい」
先人の生き方を学び、自らの将来ビジョンを描く探究学習
豊富な体験学習と並び、放課後の「滝川メディカルゼミ」も「医進選抜」コースを特色付けるプログラムだ。コース生全員参加で週4日、入試対策の授業や、医系予備校講師、現役医学部生講師による習熟度別クラス授業、面接・小論文対策などが行われる。「基礎力養成期」である中学時代には、毎日継続することで学習習慣を定着させ、主体的に学ぶ姿勢を身に付けてもらう狙いもある。
また、中1から高2にかけて行う「メディカル探究学習」も「医進選抜」コースの特徴的な授業だ。「いのち」の問題と向き合い、医療問題や医療と世界のつながりをテーマとした探究を行う。
これまでに、聖路加国際病院名誉院長の日野原重明(故人)の自叙伝を読んでその生き方を探り、自身の人生を振り返って将来のビジョンを描く探究を行った。今年度は、日野原医師のほか、漫画家の水木しげる、オムロン創業者の立石一真など、医療以外にも分野を広げて探究学習をしている。
島田教諭によると、苦労をして偉業を成し遂げた先人の生き方を追体験する中で価値観や人間性に触れ、医療人としての使命感や倫理観を身に付けることが狙いだという。「授業を通して医療人として大切なハートの部分を育てられたらうれしい」
多彩な経験の積み重ねによって将来像を明確化していく生徒たち
医進選抜コースの共学化1期生である中3生2人に話を聞いた。小川詩乃さんは、幼少期にぜんそくなどの治療でクリニックに通い、医師の仕事に興味と憧れを持ち、医師を目指すようになった。身近に医師はおらず、「ふわっとしたイメージしかなかった」というが、医進選抜コースに入学し、クラスメートの保護者の医師の話や体験学習を通して、専門分野が多岐に分かれていることを知ったという。
古林遼斗君は、父親が医師で、患者から「診察してもらえてよかった」との言葉をかけられたという父の話を聞き、自分もそのように感謝される医師になりたいと、医進選抜コースに入ったという。
校外学習で印象に残ったことを聞くと、小川さんは神戸医療福祉専門学校で、義手・義足に初めて触れ、型取りなどを体験したことを話した。「それまで外科、内科という選択肢しかなかったのですが、福祉分野の学校を見学し、病気だけではなく、医療には体の欠損した部分を補うことで助ける分野もあると知り、強く印象に残っています」
古林君は神戸市の「ふたば学舎」見学について話した。この学舎は阪神・淡路大震災の火災を免れた小学校で、08年に閉校後、建物を保存し、震災体験学習などを行っている施設。震災映像を見たり、語り部の話を聞いたりできる。「段ボールで仕切りを作る体験を通じて、プライバシー保護や他人を思いやる気持ちの大切さを学びました」
日野原医師の自叙伝を読む探究学習で、2人は同じグループに所属し、印象に残った言葉や出来事をまとめて発表したという。小川さんは「患者を救いたい思いで苦労したり、ハイジャックに遭ったり。一人の医師、人間としての物語に触れる中で、ふわっとしたイメージしかない私でも医師を目指していいんだと安心できました」と話す。古林君は「人間ドックの普及、『成人病』から『生活習慣病』への名称変更に尽力し、『患者に寄り添う姿勢が大事だ』と言い続けたことが印象に残りました」と語った。
島田教諭は「『医進選抜コース』という名ではありますが、ただ勉強ばかりして高い学力を付けさせるだけが目的ではありません」と強調する。「医進選抜コースの生徒の約半数は医学部医学科への進学を目指していますが、中学入学時点で医師以外にも多くの職種があると知る生徒は多くありません。探究学習やさまざまな体験学習を通して、多様な分野・職種に触れ、医療人としての視野を広げ、納得感を持って自分の進路を選びとれるようになってほしいと思います」



