吉祥寺湧水中学校・高等学校(東京都武蔵野市)は、来年度の共学化に向けて「FINDER BASE」と名付けたユニークなデザインの仮校舎で授業を行っている。固定した教室や座席がない自由な空間で、リベラルアーツを軸とした授業を行い、AIを活用した生徒評価を行うという。その中で菊池健太郎校長が実現を目指す「協働的な学び」と「個別最適な学び」などについて聞いた。
自由度の高い部屋でディスカッションの輪が広がる
仮校舎「FINDER BASE」の特徴について、生徒は知識の受け手ではなく、自分で問いを見つける「FINDER(発見者)」であると考え、こう名付けた。クラスごとの固定した教室はなく、その日の授業内容に応じて、生徒が部屋を移動する。黒板や教壇はなく、可動式のテーブルやイスを配置し、生徒たちは好きな場所を選んで座る。ここでは、生徒たちの間に自然にディスカッションの輪が広がる。この環境を生かし、来年度からはすべての授業にアクティブラーニングを取り入れていく考えだ。
来年度の新共学校始動に向け、今年度、中学生はこの「FINDER BASE」で、高校生は提携校である東京女子体育大学のキャンパスで授業を受けている。来年度の中1生は4月までに完成する新校舎南館で学び、中2・中3生と高1生は「FINDER BASE」、高2・高3生は東京女子体育大学で。そして2029年4月までに新校舎本館が完成し、中高全生徒が新しい校舎で学ぶ。新校舎は、「FINDER BASE」の環境を拡大した空間となる予定だ。
「湧水リベラルアーツ」で「協働的な学び」と「個別最適な学び」を実践
新しい学校では、中高6年間を通して、「who I am(自分は何者か)」を問い、自分の考えの軸を知る「湧水リベラルアーツ」を推進する。その中で、他者と関わり、考えを深める「協働的な学び」と、基礎学力を自分の速度で達成する「個別最適な学び」を実践する。
まず、「デジタル」「英語」「アート」をトリプルコア(三つの核心)として強化する。「デジタル」では、プログラミングなどを行うと同時に、ネット上でのやりとりのルールなどを理解するリテラシーを重視し、自分を大切にし、他者を思いやる気持ちを育てる。「英語」は「話せるようになる」ことを目指し、目標を一つひとつ達成していく「CAN-DOリスト」を取り入れる予定だ。「話しかけることができる」「相手が言おうとしていることが分かる」など「できる」ことを段階的に増やしていくと、自分から英語を話そうとする姿勢が養われる。「アート」は「Study」と「Art」を組み合わせた「START」をコンセプトとし、創造によって共感力、共鳴力を生む力を育てる。さまざまな教科の教員からなる「アートプロジェクトチーム」を結成し、美術に限らず、この力を育てる仕組みを国・数・英・社・理の5教科すべてに応用させていく予定だ。
AI通知表で個別最適化を実現
そうした教育では、個々の生徒の学習到達度とつまずきのある箇所を、独自に開発したAIオンデマンド学習システムやAI通知表で可視化する仕組みを作成している。教員だけで、すべての生徒の一人一人の進捗度を把握できるわけではない。AIでベースを作り、教員がそれを確認しつつ生徒に目を配る「AI通知表」を用いて、真の意味での個別最適化を実現させる。
「校則」ではなく「クレド」を設けて生徒が自らの行動を判断
教科の授業以外での教育施策として、これまで行ってきた学習支援の取り組み「ふじらぼ」を発展させて「ふじらぼ学内予備校」とし、外部の予備校講師の力を借りながら、オンデマンドで苦手な部分を繰り返し学習する。前身である藤村女子中学・高等学校の創立者藤村トヨの「すなわち、教育とは、他人の知識の注入ではなくその人の個性の発展である」という信念は大切にしていきたいと考え、「ふじらぼ」という名称はそのまま残すことにした。
部活動は、生徒が自分でつくれるようにする。今は存在しない部活動でも、「やりたい」と手を挙げれば、立ち上げから学校がサポートする。企画して、人を集めて、続けていく、その経験自体が、総合型選抜入試で語れるレベルの学びになると考えている。本校では、多様な能力を持つ生徒が集まり、さまざまな経験を経て自分の歩みたい道を見つけることを目標としており、部活動も一つに絞るのではなく、「好き」なことをかなえる活動を可能な限り体験してほしいと考えている。
学校生活については、いわゆる「校則」は設けず、「クレド(信条)」と呼ぶ自律的な約束事を設け、どう行動すべきか、生徒が自分で考えることになる。制服はなく、どのような服装がふさわしいか、生徒の判断にゆだねる。教員は「これをしてはいけない」と注意するのではなく、「先生はこう考えるけれど、あなたはどう思いますか」と問いかけることで自省を促す。
多様な夢を実現するキャリアプロジェクトチーム
進路については、名門大学に入り、高い教育レベル、専門性を学びたいという生徒もいれば、調理師になって、世界中の人に「おいしいね、ありがとう」と言ってもらえることが自分の幸せだと感じる生徒もいるだろう。生徒の多様な夢を実現させるため、新しい学校では教員による「キャリアプロジェクトチーム」を組み、目標を達成するには中高6年間をどう過ごせばよいか、生徒とともに考えていく。
オープンスクールで「この学校、自分に合っている」の声
来年度の中学入試は、国・算・理・社の「4科」と国・算「2科」、さらに「アート」「エッセイ」「デジタル」「ダンス」という「表現創造入試」を設け、帰国生も含めて男女130人を募集する。小学校で勉強を頑張ってきた受験生は、やはり評価してあげたい。そのための「4科」「2科」入試だ。「表現創造入試」は9月にテーマを公開し、そのテーマに沿った制作や発表をしてもらうことになる。上手であるかどうかを見るのではなく、例えば「デジタル」でアプリや動画などを作成するとして、「誰に、どんな思いを届けようとしたのか」を制作日記として提出してもらい、それを面接で自分の言葉で説明してほしいと考えている。これらの試験により、勉強でもそれ以外でも、自分の「得意」を生かした受験が可能になる。
中高6年間で、どういう人間に育ってほしいかについて、本校の校是は「己を識り、世に応う」であり、それを現代の言葉で表現したのが「who I am」だ。自分が何者であるか、常に問いを立て、見つけたことを社会で表現できる人になってほしいと考えている。
「FINDER BASE」で開催するオープンスクールは満席が続いており、集まった保護者の方々からは、「ここでなら、自分の子供が自分らしくいられそうだ」という声をいただいている。中学受験を本格的に考えていなかった家庭でも、子供が「この学校、自分に合ってる」と受験勉強を始めたという話も聞く。ぜひ一度、ご自分の目でこの新しい環境を確認してください。



