「こどもの哲学」に注目、正解ない問いを対話で探る…AI時代に深く考える力育む
「こどもの哲学」に注目、AI時代に深く考える力育む

「正しいとは何か」といった答えが一つではない問いに子どもたちが向き合い、対話する「こどもの哲学」に注目が集まっている。自ら問いを立て、自由に語り合うことで深く考える力を育むのが狙いで、生成AI(人工知能)が普及する中、各地で取り組みが行われている。

結論を出さなくてもよい対話

東京都江戸川区の「子ども未来館」では、今年4月から連続講座「子ども哲学対話」が開かれている。小学3~6年生の計24人が、月に1回集まり、様々なテーマで1年間話し合う取り組みだ。

4月に行われた初回のテーマは「家族」。集まった子どもたちは輪になって座り、「家族の大切さとは?」「家族は本当に必要?」といった疑問を自由に出し合った。「家族がいないとご飯が食べられないから大切」と話す児童がいる一方で、「自分を大切にしてくれない家族のことは、大切だと思えない」との意見もあり、議論が続いた。

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話し合いでは、毛糸のボールを持った人が意見を言い、他の人は耳を傾ける。話し終わったら、意見がある人にボールを渡す。

同館では、2016年からこの取り組みを始めた。難しい哲学の命題ではなく、日常で感じた素朴な疑問について話し合い、答えや結論は出さなくてもよいのが特徴だ。参加した同区の小学3年の男子児童(8)は、「考えることは簡単ではないけど、自分とは違う問いや、意見が出て面白かった」と話した。

学校現場にも広がる取り組み

こどもの哲学は、1970年代に米国の哲学者、マシュー・リップマンが始めた取り組みだ。批判的な思考力を育むための対話型の教育プログラムで、欧米の小中高校などで実践されてきた。

日本では、2011年の東日本大震災以降、人生観を問い直す哲学的な話し合いが広がり、子ども向けの取り組みも徐々に浸透。自治体やNPOがイベントや講座を開いている。やり方は様々だが、参加する子どもが自由に考えて話し、他の人の意見を聞く過程そのものが大切にされる。

こどもの哲学を研究している立教大の河野哲也教授(教育哲学)(63)は、「対話を通じて多様な意見を聞くことで、他者を理解する力も育まれる。AIが簡単に『答え』をくれる今だからこそ、子どもが自分で納得できる答えを探す過程がますます重要になっている」と指摘する。

学校現場での取り組みもある。私立中高一貫校の開智中学・高等学校(さいたま市)では、12年度から道徳の授業で導入。中学1、2年生が、2週間に1回、対話に取り組む。

私立湘南学園(神奈川県藤沢市)でも23年度から、小学2年生が週1回、生活や国語の時間に様々なテーマで話し合う。同学園の萩野昌美教諭(53)は、「知識や情報がオンラインですぐに学べる時代。自分とは異なる意見を知り、話し合う場が重要だと考えた」と導入の意図を説明する。

学校での実践の背景には、小中学校で18年度以降、道徳が「特別の教科」になり、「考え、議論する道徳」への転換が打ち出されたことがあるという。また、20年度から小中高校で順次実施された学習指導要領に「主体的・対話的で深い学び」の理念が盛り込まれたことも導入を後押ししている。河野教授によると、道徳や総合学習の時間に取り入れる学校が多いという。

大人は「一緒に考える仲間」

都内各地でこどもの哲学のイベントを開いているNPO法人「こども哲学・おとな哲学 アーダコーダ」(東京都港区)は、教員向けの研修や学校への講師派遣に力を入れている。25年は全国の10校から講師派遣などの依頼があり、年々増えているという。

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同法人の盛岡千帆理事は、「対話の場で、大人は何かを教える立場ではなく、子どもと一緒に考える仲間。大人が正解を導くことが多かったこれまでの教育を問い直す意味もあるのではないか」と話している。