売り手市場が続き、学生の就職率が高止まりする「終活戦線」。その水面下では、AIを活用してエントリーシートのエピソードを盛る学生と、それを見抜くのに苦戦する採用担当者の攻防が繰り広げられている。本稿では、AIの実装がデフォルト化した現在の採用活動の実態と、損なわれる採用の本質について、細谷修平氏と曽和利光氏の共著『AI時代の採用戦略 “人を見る仕事”は何がどう変わるのか』から一部を抜粋・編集して伝える。
学生の約7割がエントリーシートにAIを利用
マイナビの2026年卒調査によると、エントリーシートについて「エピソードは事実より『盛って』書いている」と答えた学生は16.5%、「志望動機を創作したことがある」が13.3%、「事実ではないエピソードを使ったことがある」は4.8%だった。
また、同じ調査の別の質問では、AIを利用したことがある学生は82.7%、就職活動でAIを利用したことがある学生は66.6%に達した。利用目的の最多は「エントリーシートの推敲」で68.8%である。
これらのデータから、「完全な事実」と「評価されやすい表現」の間で、一定割合の学生がエントリーシートの調整や創作を行っており、その際にAIが使用されていることがわかる。学生にとってAIは、一部の先進層だけの特殊な道具ではなく、就活の文章を整える一般的なインフラになりつつある。
企業側に起きる「疑心暗鬼」と「業務負荷の増大」
学生のAI活用が進む一方で、企業側では「疑心暗鬼」と「業務負荷の増大」が生じている。採用担当者は、AIによって盛られたエピソードを見抜くのに苦戦し、真偽の確認に時間を費やすことになる。
「AIvsAI」という構造と採用の本質からの乖離
学生と企業による「AIvsAI」という構造が生まれつつある。学生はAIで最適化した自己表現を行い、企業はAIでその真偽を見極めようとする。しかし、この合理的な行動のはずが「採用の本質」から離れていく危険性をはらんでいる。
学生が語るのは「AIに最適化された自分」であり、本来の個性や人間性が評価されにくくなる。採用プロセスがAIに依存することで、人を見るという採用の本質が見失われてしまう可能性がある。



