ベトナム共産党政権は、長年続けてきた「二人っ子政策」を廃止してから1年、国民により多くの子どもをもうけてもらうためのインセンティブを打ち出した。2026年7月1日に施行された新たな人口関連法制では、第2子を出産する母親の産前・産後休業が6か月から7か月へと延長されるほか、金銭的支援も提供される。同国は「豊かになる前に高齢化してしまう」リスクに直面している。
新制度の具体的内容
首都ハノイ在住のグエン・キム・ビックさん(32、女性)と夫のライさんが第2子をもうけた場合、ビックさんは産休が1か月延長され、無料の出生前検査を受けられるほか、少額の出産一時金を受け取ることができる。ビックさんは、第1子の幼い息子がカラフルなボールプールで元気に遊ぶ姿を見つめながら、「息子と1か月長く自宅で一緒に過ごせるし、夫も数日間長く家にいられる」と語った。
新たな制度では、出生前検査および新生児マススクリーニング検査に補助金が出るほか、特定の基準を満たす母親には、平均月収の3分の2に相当する最大228ドル(約3万7000円)の出産一時金が給付される。
政策転換の背景
国連人口基金(UNFPA)ベトナム事務所の人口・開発主任であるファム・ティ・ラン氏は、「これはアプローチの大きな転換だ」「これまでの家族計画のコントロールから、人口動態へと焦点を移しつつある」と評価した。昨年までベトナム共産党員が第3子をもうけた場合には処罰を科されていたこの国での方針転換は、人口統計学的な見通しが暗転する中でのものだ。平均寿命の急激な伸びと出生率の低下により、ベトナムの少子高齢化は世界でもかなり速いスピードで進んでいる。
こうした傾向は、近年の経済開発の成功を反映したものだが、経済学者らは、将来的な労働力不足と社会保障制度の逼迫につながる可能性があると警告している。新たな人口関連法制は、こうした人口動態の変化を緩やかにすることを目的としている。
国民の反応と現実
しかし、会計士のビックさんと広告業界で働くライさんの夫婦にとって、今回のインセンティブは十分とは言えない。世帯月収1000ドル(約16万2000円)の半分近くは第1子の養育費に消えており、現在は小さな家でライさんの両親と同居している。ビックさんは、自身が受け取れる出産一時金の金額を引き合いに出し、「出産一時金がもらえるのはうれしいが、十分ではない。たった1か月の産休延長と75ドル(約1万2000円)程度の出産一時金のために、もう一人産もうだなんて、とても思えない」と本音を語った。
政府の世論調査によると、既婚の回答者の73%が「自身の賃金(収入)が子どもをもうけるかどうかの決定に影響を与えている」と答えている。ハノイでレジ係として働き、月収約380ドル(約6万2000円)を得ているチャン・ミン・アインさん(24)は、「私は子どもを一人も産むつもりはない」として、子育ては「経済的にも精神的にもプレッシャーが大きすぎる」と説明。「(自分のことだけでいっぱいいっぱいなのに)もう一人養うなんて、どう考えても無理。絶対に無理!」と付け加えた。
人口動態の現状と課題
ベトナムの二人っ子政策は1988年に本格導入されたが、隣国中国が2016年まで続けていた「一人っ子政策」ほど厳格なものではなく、中国のように不妊手術や強制中絶が行われることはなかった。ベトナムはまだ、韓国や日本のような人口減少スパイラルに陥ってはいない。女性1人が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は1.93で、人口を維持するのに必要となる2.1を下回っているが、大半の先進国に比べれば堅調な水準にある。
一方、平均寿命は75歳近くまで伸び、60歳以上が総人口に占める割合は10%を超えた。政府の予測によると、今世紀半ばまでには、60歳以上が全人口の25%を占めるようになり、総人口が減少に転じる見通しだ。
経済成長への影響
経済学者らが懸念しているのは、ベトナムの少子高齢化が、高齢化が急速に進んだ先進国よりも「開発のより早い段階」で起きているという点だ。ベトナムはアジアで最も急速に成長している国の一つだが、相対的にはまだ貧しい。ベトナムの1人当たり名目国内総生産(GDP)は約5000ドル(約81万2000円)で、今のベトナムと出生率が同水準だった1980年代初頭の日本の水準(インフレ調整前)の半分にすぎない。
世界銀行は2021年の報告書で、これはベトナムが「多くの先進国が経験したよりも、高齢社会に適応するための時間が短い」ことを意味していると警告。同国が「経済成長の大減速」に直面する前に改革を行える時間は「わずか」しか残されていないと警告していた。
今後の展望
ベトナム共産党指導部は、新たな人口関連法制をこの問題に対する一つの答えとして位置づけ、東南アジアで初の試みだとアピールしている。UNFPAのラン氏もこの法制を歓迎し、「少子化対策」であり、カップルが自らの意思で子どもをもうける決断を下せるようにするものだと述べた。しかし同時に、出産一時金の限界も認めており、親たちの考えを変えるには、子育て期間を通じた「継続的な支援」が不可欠であることが多いと指摘。「より包括的な支援」がなければ、高額な住居費や子育て費用が「人々が子どもを持ちたいという願いを叶える妨げ」になり続けるだろうと付け加えた。



