新型コロナウイルスの起源は食品市場なのか、研究所からの流出なのか――。二つの仮説に迫る「コロナの起源 真実の探究者たち」(創元社)が出版された。分子生物学者のアリーナ・チャンとベストセラー作家のマット・リドレーが2021年11月に出版し、22年に改訂した書籍の翻訳だ。
ネット上の「探偵」たちの自主調査を記録
真実が知りたいと自主的に調査を始めたインターネット上の「探偵」たちが、情報を交換しあい、隠されたデータを掘り起こしていく様子が克明に描かれる。当初は真剣に扱われていなかった「研究所流出説」が無視できない説であるという状況証拠をつみあげていく記録になっている。
手がかりとなった13年の医学論文
手がかりの一つは、20年5月、匿名のツイッター(現X)ユーザーが見つけた13年の医学論文だった。そこには12年にコウモリがいる雲南省の銅山で、作業者が原因不明の肺炎にかかった記録が残されていた。この患者の血液のウイルス検査をしたのは、武漢ウイルス研究所だった。
武漢ウイルス研究所チームは、この銅山でコウモリからウイルスを採取してゲノム解析を行い、データベースにおさめていた。中には、新型コロナのゲノムと96%一致するものがあった。だが20年2月、武漢ウイルス研究所が新型コロナウイルスのゲノムを解析し英科学誌ネイチャーで発表した論文は、12年の肺炎や銅山にふれなかった。
残された未解明の点と監訳者の見解
1800キロ離れている銅山と武漢の間で、動物からヒトに新型コロナウイルスが感染した経路につながる証拠は見つかっていない。中国は武漢の食品市場で取引されていた野生生物起源の可能性を指摘していたが、動物からヒトに感染する起源となったことを示す証拠は見つかっていない。
さらに、米国の研究機関と武漢ウイルス研究所は、ウイルスを人工的に改変する研究計画書を作っていた。研究費の申請は却下されたが、計画にはヒトへの感染しやすさに重要な配列を人工的に入れる実験もあったという。
監訳者である筑波大の掛谷英紀准教授は、チャン氏と連絡をとり、新型コロナウイルスの起源を議論する国際的なグループの会議に参加してきた。翻訳本には、最近の状況の追記もある。米中央情報局(CIA)は25年1月、低い確信度だが、研究所に関連した起源説の可能性の方が高いと発表した。
掛谷さんは、「新型コロナウイルスの起源が不明なら、次のパンデミックに適切に対応できない。真実を全て明らかにすべきだ」と話している。