紀勢線「勝負の夏」実績示せず、増便効果は小幅 維持へ模索続く
紀勢線「勝負の夏」実績示せず、増便効果は小幅 維持へ模索続く

JR西日本と沿線市町、和歌山県などでつくる紀勢本線活性化促進協議会の「新宮白浜区間部会」の活動は2026年度で節目を迎える。国の補助金を活用し、特急「くろしお」を月~木曜で1往復ずつ増便する実証実験が来年2月で終わるためだ。

増便効果は小幅、目標との差は大きく

部会は、長距離移動に利用されやすいくろしおの増便で利便性を高めて、利用促進になりえるかを確かめている。成功の目安となる基準について、新宮―白浜駅間で1日当たりの特急の乗車人員が1040人(24年度は433人)としている。

ここまで増便開始後の25年11月~26年6月の平均は、24年11月~25年6月と比べて23人増の466人にとどまっており、観光客が増えると期待された今夏の実績の発表内容が注目される。

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JR西の富沢五月・和歌山支社長は今年6月上旬、慣例になかった記者会見を和歌山市内で開き、「今年が勝負の夏。決意を伝えるために記者会見の場を設けた」と路線の利用促進に向けた意気込みを語った。

JR西と県の主張の隔たり

JR西は「(くろしお増便の)実証事業の成果を踏まえ、地域と話し合いたい」とし、将来の区間のあり方を巡る具体的な議論はまだない。一方でJR西全体の運輸収支は黒字でも「大量輸送ができていない赤字路線に黒字を回すことは、必ずしもふさわしくない」と説明してきた。

JR西は幅広く地域と議論を進めるため、紀勢線の白浜―新宮駅間など利用の少ない区間に限って毎年赤字額を公表してきた。同じ路線内でも、区間ごとの本数に差があるなど、電車の運行の仕方に違いがあるからだ。

こうしたJR西の主張する「赤字」について、県は疑問を呈してきた。25年11月の記者会見で、宮崎泉知事は「JR西が自分たちで勝手に(選んだ)区間の収支などを計算して存廃の議論をすることは、決して受け入れることができない」と改めて主張した。

JR西の赤字区間の公表を受け、県側は「国鉄民営化の時から赤字路線を含めて全体で黒字を確保できるよう事業が受け継がれており、鉄道網を維持する方向で事業に取り組む責任がある」との立場を取ってきた。

加えて、自治体による財政負担で路線を継続させるのは限界があるとして県は22年度以降、国に対して▽鉄道網の維持の考え方を示す▽鉄道事業者に路線全体の収支を開示させたり、黒字を赤字路線へ配分させたりするルールを作る▽鉄道事業者に補助が必要な場合は国が必要な支援をする――などを要望している。

上下分離方式の動きと専門家の指摘

鉄道事業者が「単独で路線の維持が難しい」とした場合、選択肢の一つとして挙がるのは、自治体などが設備を保有し、運行を事業者が担う「上下分離方式」だ。国土交通省によると、全国28事業者が採用。県内では和歌山電鉄貴志川線が、28年度をめどに移行する方針が決まっている。

上下分離方式への移行は鉄道事業者と自治体の協力が欠かせない。JR北海道は、幹線を含めた路線の上下分離方式を26年4月に提案したが、地元自治体からの反発を受け、9月に上下分離方式案を撤回した。

ローカル線のあり方を議論した国の有識者検討会では26年4月、「維持するメリットがあれば、幅広い受益者に負担させる仕組みの導入も考えられる」との提言もあった。

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和歌山大経済学部の辻本勝久教授(交通政策・交通計画学)は、利用者数や収支の向上を中心とした現状の取り組みだけでの議論には限界があるとする。その上で「紀勢線の今後の方向性を模索するタイムリミットは迫っている。地域経済への影響や住民の移動手段の確保など複数の評価軸で客観的なデータを整え、鉄道を維持・更新するコストと地域社会が得られる便益を総合的に比較できるようにするべき」と指摘する。

多くは残されていない時間の中で、紀勢線の今後を模索する動きが続く。