熊本地震で確認された死者は13日までに39人に上った。そのうち熊本県が氏名を公表したのは16人にとどまっている。県の指針では、災害時の死者の氏名公表には「遺族の同意」が必要だと定めているためだ。
国は死者の氏名公表についての判断基準を示しておらず、自治体によって対応にばらつきはあるものの、「非公表」の流れは強まっている。
遺族の同意が得られず17人
県の指針は今年3月に策定。死者に関する情報は個人情報保護法で保護される「個人情報」には当たらないため、国民の知る権利に応え、不確実な情報を拡散させないことを目的に、住民基本台帳の閲覧制限がなく、遺族の同意が得られた場合には公表する。遺族の範囲は定めていないが、相続権のある近い親族を想定しているという。
熊本地震で県が死者1人の氏名を初めて公表したのは発災から5日後の8月2日だった。13日までに確認された死者39人のうち、指針の対象となるのは災害で直接死亡したと認定した36人。県はそのうち16人の氏名を公表した。17人は遺族の同意が得られなかったとして居住市町村・年代・性別・死因の4項目のみを公表し、残り3人は遺族の意向を確認中とした。
捜索対象者の絞り込みに寄与も
災害時の氏名公表のあり方を巡っては、全国知事会などで議論されてきたが、国は令和5年、災害時に所在が分からない安否不明者の氏名は、家族の同意なしで原則公表するとした初めての指針を公表した。背景の一つが、3年に静岡県熱海市で発生した土石流災害の際、安否不明者の氏名を公表したことで捜索対象者を絞り込めたことだった。
災害発生から72時間で生存率は下がるとされ、個人情報も積極的に活用して救助活動を効率化することが重要だとされた。死者についても統一見解を求める声はあったが、国は自治体の判断に委ねる。熊本県のように、遺族の同意を必要とする指針を定める自治体は少なくない。
安易な〝匿名化〟に懸念
一方、プライバシー意識の高まりなどで、対象遺族の同意を得ることは難しくなっているとみられる。令和6年の能登半島地震では熊本県と同様の対応だった石川県の犠牲者734人中、氏名が公表されたのは約2割にあたる170人だった。
早稲田大の澤康臣教授(ジャーナリズム論)は「人には家族だけでなく、社会的なつながりもある。死者の情報は社会の基礎にある公共情報の一つで、コミュニティーの機能維持のためにも公開することが望ましい」として、安易な〝匿名化〟には懸念を示す。
また遺族の間で意見が分かれたり、時間の経過とともに気持ちが変わったりすることも想定される。澤教授は、多数の死者が出る大災害では「遺族の意向確認に追われることが自治体の過度な負担になるおそれもある」と指摘する。



