松橋事件控訴審判決27日 検察の証拠隠しと長時間取り調べが争点に
松橋事件控訴審判決27日 検察の証拠隠しと長時間取り調べ

1985年に熊本県で発生した「松橋(まつばせ)事件」を巡り、殺人罪の再審無罪が確定した男性の遺族が国と熊本県に賠償を求めた訴訟の控訴審判決が27日、福岡高裁(岡田健裁判長)で言い渡される。主な争点は、再審無罪の決め手となった証拠を明らかにせず公判を続けた検察の対応、そして長時間に及んだ県警の任意取り調べが違法か否かである。証拠開示や取り調べの在り方が問われる中、高裁の判断が注目される。

事件の経緯と再審無罪

熊本県松橋町(現・宇城市)で男性(当時59歳)が刺殺された事件で、宮田浩喜さん(2020年に87歳で死去)は逮捕前の任意取り調べで殺害を「自白」し、逮捕された。1審途中で否認に転じたが、懲役13年の判決が言い渡され、服役した。

弁護団は97年、再審準備中に検察側が開示した証拠から、宮田さんが「小刀の柄に巻き、犯行後に燃やした」と供述していたシャツの布片を発見。この布片が自白の信用性を揺るがし、2019年に再審無罪となった。

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1審判決と控訴審の争点

昨年3月の1審・熊本地裁判決は、検察官が布片の存在を明らかにしないまま公判を続けたことを違法と判断し、国のみに約2380万円の賠償を命じた。原告側、国側が控訴し、原告側は1審判決が認めた国への賠償を県も連帯して支払うよう訴え、国側は1審・敗訴部分の取り消し、県側は控訴棄却を求めている。

控訴審では、1審判決が違法性を一部認めた検察側の公判対応について争われた。国側は「布片は自白の信用性に影響を与えるものではないと考えていた」として公判を継続したのは違法ではないと主張。1審判決は布片を公判に提出する義務があったとまでは認めておらず、原告側は「公判の結果に影響する可能性が明白な証拠を公判に提出しなかった『証拠隠し』の違法性が認められるべきだ」と訴えている。

長時間任意取り調べの違法性

また、1審判決は、任意段階の取り調べについて、9日間で計約74時間、1日最長約13時間に及んだと認定。「相当に長時間にわたった」と指摘したが、「暴力や恫喝(どうかつ)はない」として違法性を認めなかった。

原告側は控訴審で、「帰してください」と伝えてもすぐには帰宅を許されず、出頭を拒否しても捜査員が自宅を訪れて調べられるなどしたとして「ほぼ連日長時間にわたって取り調べ、自白を強要した」と主張。県側は「休憩などを設け、了解を得た上で適正な範囲で行われた」と反論している。

弁護団の思いと今後の影響

弁護団共同代表で、確定審から30年以上にわたり宮田さんを支え続けた斉藤誠弁護士(80)(東京弁護士会)は「なぜうその『自白』をしなければならなかったのか。その疑問に裁判所は答えてほしい」と話す。

斉藤弁護士ら弁護団は、再審公判で宮田さんの健康状態などを考慮して迅速な審理を優先。2019年3月の判決は冤罪(えんざい)の原因に触れなかった。同判決が確定した約1年半後に宮田さんは死去。今回の訴訟はその直前の20年9月、弁護団らが「二度と同じような冤罪を生み出さないため、捜査機関の責任を明らかにしたい」と起こした。

捜査機関の取り調べが問題となるケースは後を絶たず、再審制度の見直しを巡り、証拠開示の義務化などを柱とする改正刑事訴訟法が17日に成立した中で迎える判決。斉藤弁護士は「犯人と決めつけて強引に調べ、不利な証拠を開示・提出しない捜査機関の体質は変わっていない印象だ。適正な捜査、公判対応を促す判決を期待したい」と語った。

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専門家の見解

大阪大の水谷規男教授(刑事訴訟法)の話「任意の取り調べが違法かどうかについては、過去の裁判例に照らして時間や日数、取り調べの状況とともに、嫌疑の程度をどう評価するかがポイントになる。検察側が被告に有利な証拠を法廷で明らかにしなかったことについて、提出義務があると判断するかどうかも注目される」