愛知県警が今年6月に摘発した特殊詐欺事件で、電話をかける「かけ子」がオンラインの「研修」で手口を学び、自宅からスマートフォンで詐欺電話をかけていたことが捜査関係者への取材でわかった。末端のメンバーを遠隔で操る事例は全国で相次いでおり、警察当局は、一部の詐欺グループが摘発逃れのため拠点を置かず、かけ子を遠隔で管理しているとみて警戒を強めている。
摘発現場で逮捕されたのは2人だけ
県警の捜査員が6月22日、警察官をかたる「ニセ警察詐欺」の拠点の疑いがあるとして、名古屋市南区と愛知県日進市のアパート一室をそれぞれ捜索した。かけ子グループの一網打尽を狙ったが、現場で逮捕されたのは、50歳代の男2人だけ。二つのアパートのうち一つは男の自宅、もう一つは「かけ場」として借りられていた。
男らは「匿名・流動型犯罪グループ(匿流)」のメンバーで、それぞれ知人を介して勧誘された。同じ詐欺グループに所属しながら、指示役から支給されたスマホを使い、自宅などから詐欺電話をかけていたという。
遠隔管理の実態とAI活用の可能性
押収したスマホの解析では、この詐欺グループの指示役が、秘匿性の高い通信アプリなどを通じ、警察官役の複数のかけ子を遠隔で管理していたことが判明した。かけ子が被害者から聞き取った家族構成や資産状況などの情報を即時に共有していたほか、通話内容を遠隔監視できる通信アプリがインストールされていたという。
捜査関係者によると、被害者をだます手口や文言などをまとめた「詐欺マニュアル」もアプリを通じて共有され、オンラインで行われる実践形式の「研修」の合格者だけが、かけ子として採用されていた。被害者との電話中、マニュアルの文言を言い間違えた場合、修正点や通話時の話し方などを助言するメッセージがかけ子に届く仕組みもあったという。
かけ子へのメッセージの一部は通話が終了した直後に送信されていたことなどから、県警幹部はAI(人工知能)を組み合わせた「AI bot」を使っていた可能性があるとみている。
被害は32件、総額3億5000万円に
このグループによる詐欺被害は2024年8月以降で少なくとも32件、被害総額は3億5000万円に上る。県警は、研修に合格した80~90人がそれぞれの自宅などに待機し、指示を受けて詐欺電話をかけていたとみて捜査している。
遠隔でかけ子を管理するグループは、他にも確認されている。警視庁は8月、男(30)ら2人を詐欺未遂容疑で逮捕した。同庁幹部によると、男らは5月以降、偽名を使って千葉や静岡、山梨県などのホテルを転々とし、部屋から高齢者らに詐欺の電話をかけ続けていたとみられる。
群馬県高崎市のホテルから押収されたスマホのメモには、詐欺のだまし文句があり、関西や中国地方など複数の方言で書き分けられていた。
大阪府警が23年に摘発した特殊詐欺グループもかけ子らの拠点を設けておらず、府警はホテルや自宅などに分散する「テレワーク型」で活動していたとみている。
匿流による事件は多発しており、関与が疑われる今年上半期の特殊詐欺被害額は過去最悪の約1816億2000万円(暫定値)で、前年同期から約5割増えている。
警察幹部は「詐欺拠点の運営にはアパートの賃貸などで多額の費用がかかる。そのため、末端メンバーを遠隔で操るケースが目立っており、対策を強化していく」としている。
海外拠点の摘発と分散化の動き
特殊詐欺を巡っては近年、日本国内での摘発が強化され、詐欺グループが捜査を警戒して海外に拠点を移す動きが続く。ただ、日本警察と海外捜査機関の連携強化が進み、摘発事例も増えている。
昨年はタイ・ミャンマーの国境付近やカンボジア北西部ポイペトで大規模な摘発があった。警察庁によると、フィリピンやマレーシアなどを含む拠点で「かけ子」などに関与した計54人(前年比4人増)が逮捕された。
警察関係者は、摘発をきっかけに詐欺グループが分散化し、小規模グループに移行した可能性があるとみている。



