2026年FIFAワールドカップがアメリカ、カナダ、メキシコの3カ国共催で開幕し、連日熱戦が繰り広げられている。しかし、今大会は政治とスポーツの難しい関係を象徴する出来事が相次いだ。作家・スポーツライターの小林信也氏は「イラン代表が置かれた状況は、スポーツと政治の難しい関係を映し出していた。それでもサッカーには世界をつなぐ力がある」と指摘する。
戦争当事国同士の対戦可能性とFIFAの姿勢
今大会は、イランと戦争状態にあるアメリカで開催される初めてのW杯となった。イランも出場しており、グループリーグの結果次第では決勝トーナメントで両国が対戦する可能性があった。結果的にアメリカがD組を1位通過、イランはG組3位で敗退したため直接対決は実現しなかったが、小林氏は「このような対戦の可能性こそスポーツの存在価値がある」と語る。
FIFAはイランの出場を認めたが、過去にはロシアを大会から除外した例もある。今回はイランが求めた「アメリカ国内からメキシコへの試合会場変更」にも応じなかった。小林氏は「この点だけ見れば、政治状況に左右されないとするFIFAの明快な姿勢に敬意を感じる」と評価する。
アメリカ政府によるFIFA主権の侵害
しかし、大会運営の段階では問題が表面化した。アメリカ政府はビザ発給や入国手続きにおいて、FIFAの規定よりも国家の判断を優先する姿勢を鮮明にした。本来、開催国はFIFAの規定に基づき、ビザや入国手続きの円滑化、差別禁止など人権配慮を含む運営環境を整える義務があるが、アメリカはこれを順守しなかった。
イランは当初、アメリカ国内のアリゾナ州で直前キャンプを行う予定だったが、ビザ問題が解決せずメキシコのティファナに変更せざるを得なかった。最終的にイラン代表選手にはビザが発給されたが、チーム幹部やサッカー関係者15名の入国が認められなかった。うち4人は後日異議申し立てが認められたが、イランサッカー連盟の会長、副会長、メディアディレクターらはメキシコからアメリカの試合会場に向かうことができなかった。
FIFAの二重基準とトランプ政権への配慮
FIFAはロシアのウクライナ侵攻後、ロシアを国際大会から排除した一方、イランに対しては異なる対応を取った。小林氏は「FIFAは政治や戦争の影響を受けないとしながら、例外的な措置も取ってきた。今回はアメリカの判断を容認した形で、トランプ政権への配慮があったのではないか」と指摘する。
W杯サッカーはオリンピックと異なり「平和の祭典ではない」と明言されている。小林氏は2002年日韓共催大会前に「W杯は平和の祭典だ」と執筆し、組織委員会から厳しく注意された経験を明かす。「平和を目的に大会を開くのではない。一見、平和に背を向けるような姿勢が、逆に戦争当事国同士でも戦う現実をもたらしている」と述べる。
スタジアム外で起きている不平等
グループリーグを終えた時点で、テレビ中継を見る限り戦争を想起させる光景はほとんどない。しかし、実際には影響は確実に存在する。イラン代表は不公平な環境で戦わされたと言える。米国による入国制限は、スポーツの公平性に疑問を投げかける。
一方で、サッカーが人々を結びつける力も確認された。イラン代表選手たちは歴史的な対立を乗り越えて団結し、ピッチ上で真剣勝負を繰り広げた。小林氏は「政治の壁を乗り越えるピッチの真剣勝負こそ、スポーツの存在価値だ」と強調する。
今後の五輪への影響
2028年ロサンゼルス五輪もアメリカで開催される。今回のW杯でのアメリカ政府の姿勢が、今後の国際大会にどのような影響を与えるか注目される。政治の影がスポーツに及ぼす影響は、今後も議論が続く。



