退職した有名企業の社員になりすまし、株式投資を勧めるSNS投稿が相次いでいる。偽の社員証の画像が使われるケースもあり、名前が挙がった複数の企業は「元社員」の存在を否定している。近年被害が急増している「SNS型投資詐欺」の新たな手口とみられ、各社は注意を呼び掛けている。
「退職した今だから話せる」と偽投稿
半導体大手「キオクシアホールディングス」の元社員と称する人物は8月中旬、米メタ(旧フェイスブック)が運営する短文投稿アプリ「スレッズ」に「今日、正式に退職しました。長年この業界にいたからこそ分かること、結構あります」と投稿した。添付された社員証とされる画像には、エンジニアの役職で、女性の名前と顔写真があった。
投稿は「今だから、話せることもある」と続き、株価の値上がりが期待できる企業を知っているとし、LINEの連絡先も表示されていた。この社員が在籍したかどうか、読売新聞が同社に取材したところ、同社コーポレートコミュニケーション部は「投稿に掲載されている従業員は在籍していない」と回答した。
SNS型投資詐欺の典型的な手口
SNSを入り口にもうけ話を持ちかけて、LINEに誘導するのはSNS型投資詐欺の典型的な手口とされている。LINEでのやりとり後、架空の投資に勧誘し、現金を振り込まされてだまし取られる。
警察庁の統計では今年1~6月のSNS型投資詐欺の被害は約797億9000万円(前年同期比約444億円増)と深刻だ。国民生活センターによると、著名人をかたる手口などが広がっているが、会社関係者による被害も出ている。
読売新聞がスレッズやX(旧ツイッター)を調べたところ、7月以降、野村証券や三菱重工など少なくとも大手企業5社の社員になりすました投稿が見つかった。この他、同じ名前で複数の企業に在籍していたり、社員証の写真が既に死去した科学者のものだったりする疑わしい投稿も複数確認された。
各社の対策と専門家の指摘
5社は取材に対し、「なりすまし投稿を確認し、問題ととらえている」などと回答した。信用が悪用される事態に、各社は対策を講じている。
野村証券を早期退職した執行役員と称する人物は8月下旬、社員証や「証券従業員資格証明書」の画像を載せていた。同社を傘下に持つ野村ホールディングスによると、この人物が在籍した事実はなく、社員証なども偽物という。同社は社内のサイバー対策チームで、詐欺とみられるサイトや偽投稿をチェックし、確認されれば、SNS事業者に削除を依頼している。
三菱重工では、社名や役員をかたる投稿が確認され、SNSに載っている社員証は実際と仕様が異なっていた。同社はホームページ(HP)で「社名や役員名をかたる投資勧誘行為に注意してほしい」と掲載した。ENEOSホールディングスも同様にHPで注意喚起している。広報担当者は「当社に一切関係なく、閲覧者に誤認を与える恐れがある」と警戒している。
日本大の木村敦教授(社会心理学)は「多数の社員を抱える大企業の元社員であれば、『企業の内部事情に詳しい』と期待する人は多い」と指摘。その上で「徐々に信頼を得て、大金を振り込ませる可能性があり、投資を持ちかけてくれば、信用せずに警察に相談してほしい」と呼び掛けている。



