クマ襲撃の最前線・秋田を描く『ルポ クマ襲撃』書評
クマ襲撃の最前線・秋田を描く『ルポ クマ襲撃』書評

環境省によると、昨年度に全国でクマに襲われたのは238人、うち死亡したのが13人。秋田県では67人と全国で最も被害者が多く、うち4人が亡くなっている。本書は、そんな「クマ襲撃」の最前線をルポルタージュする。

かつてのイメージとは一線を画すクマの姿

秋田でクマについて語られるとき、これまでは、伝統的な猟師であるマタギ、薬として高値で取引されてきたクマの胆(きも)などが主なテーマとなっていた。しかし本書でつぶさに記されるクマの姿はかつてのイメージとは一線を画している。平場の日常生活にクマの影が映っている。

日本では、北海道にはヒグマ、千葉県を除く本州全域と四国の一部にツキノワグマがすむ。かつてめったに人を襲わなかったはずのツキノワグマしかいないにもかかわらず、秋田県では67人と、全国で最も被害者が多く出た。そのうち4人は亡くなっている。秋田県が「クマ襲撃」最前線であることは明らかだ。

自衛隊出動と変わりゆく生活

ツキノワグマの体高は秋田犬とそう変わらないという。しかし、大きいクマだと体重は100キログラムを超す。各自治体の判断でクマを撃つことができる「緊急銃猟」が適用された2025年秋、秋田県内では自衛隊が出動するに至った。ホームセンターにクマ除(よ)けグッズが並ぶ風景ももう珍しくはない。

クマが好む山中のブナの実がこの年と同じく「大凶作」だった令和5年から柿の実が狙われる例が激増していたため、以前から餌となっていた栗と併せて、出没防止のためたくさんの木が伐採されている。ギンナンを食べたという報告も出てきた。クマが街なかの風景をも変えていく。

県民の実感と自衛の限界

岩手県との県境である鹿角市の夫婦の言葉は、県民の実感と重なるだろう。「家から出ないで、家に鍵をかけて、襲われないようにして、と言われ続けることで生活の制約がものすごく増えてきて、かなりのストレスでした」

事例を知れば知るほど、自衛していれば大丈夫とはいえない。生活圏内で襲われて間一髪、一命を取り留めた人は、ああすればよかったのか、こうすれば、と自問せざるを得ない。同じ土地に暮らすもの同士の糧(かて)の奪い合いはこれほどまでに熾烈(しれつ)なのか。