朝晴れエッセーの7月月間賞に、牧園大さん(42)=神戸市兵庫区=の「小雨のバス停」が選ばれた。バスを待つ数分の間、病院に行きたいが乗車するバスが分からず周囲に尋ねるおじいさん。見つめる筆者の描写力と、声をかけようか迷った末の、最後まで読めない展開が読み手の心をつかむ。
選考委員の講評
選考委員は作家の玉岡かおるさんと門井慶喜さん、中村晃之・産経新聞大阪本社編集長。門井さんは「スーツ姿の男性には尋ねるけれど自分には聞かない、おじいさんの様子を描く説明が非常に手際がいい。そして淡々と進んでいくのに、最後の段落で、相撲でいえば怒濤の『寄り』が始まります。おじいさんのよれた服と、シワ一つない紙袋のこの描写、観察眼が素晴らしい! 最後まで手を緩めることなく、描写を書き切っています。大した説明力で感銘を受けました」と評した。
玉岡さんは「誰にでもある日常の一瞬を上手に切り取っています。おじいさんを助けられなかった後悔の念も、エッセーにすることで昇華したという点では、朝晴れエッセーの役どころを果たせたといえますね」と話した。中村さんは「ややこしい情景が見事に文章化されています。もどかしい状況に共感した読者もきっといますよね」とコメントした。
他の優秀作品
7月は生き物や夏らしいテーマの話も多く、バラエティーに富んでいた。中村さんは「麦刈りの頃」(7月5日、東京都葛飾区、佐々木恒男さん)を「描写でいえば美しい」と評価。玉岡さんは「古き良き日本の光景として詩を読んだような作品でした。失われた遠い過去が、目に浮かぶような色彩で再現されていて◎にしました」と話した。
「初夏の手仕事」(7月27日、神奈川県真鶴町、佐藤由貴さん)には2人の○がそろった。門井さんは「印象に残るのは梅ではなく、実は筆者の行動力。無人売店の主に電話までして、郷ひろみでクスッとして梅酢で紅しょうが…筆者の行動が無限大に広がるから面白い」と評した。
「令和大ゴッホ東京感涙旅行」(7月15日、東京都中野区、佐仲由美子さん)に門井さんは○をつけ、「◎にしようかと悩んだほど大好きです。タイトルから浮かれ切った感じで嫌な予感がします。読み進めても、独特な言葉遣いで、何から何まで破天荒。だけど、体を壊したことや障害者手帳といった話が出てくる。つまり、浮かれる理由があるわけです」と語った。
「至福の時」(7月12日、横浜市青葉区、大石みどりさん)について、玉岡さんは「筆者の書かずにはいられないという思いが、いとしいと感じるほど伝わってきました。母親を失った介護ロスに包まれている筆者。私も介護を経験しましたが、筆者が描いたお母さんとの長い濃密な時間に、今介護に当たっている人は心を動かされただろうと感じました」と話した。
「8秒間の長湯」(7月31日、和歌山県橋本市、木田汐音さん)には3人とも○がついた。玉岡さんは「カラスの行水に引っ掛ける切り出しがシャープで面白い。孫の『えーっと、えぇーと』に『ほぼ言うてるがな』と返す、おじいちゃんのセンスもいいですね」と評価した。
牧園さんの思い
牧園さんは作品に描いたおじいさんを昨年末に見かけたといい、「帰省して高齢の両親と会った後だったから、おじいさんに声をかけられなかった後悔を余計、抱いたのかもしれません」と振り返る。2カ月後、電車内で倒れた女性を介抱する経験をし、「私の中では、おじいさんのSOSは見過ごしてしまった後悔が、より深くなりました」と語る。
「夜、おじいさんに思いをはせながら、当時のことをエッセーにしてみました。不思議ですね。書くことで気付かないうちに、気持ちが整理できていました」。同じような経験をした人も多いだろうと、初めて朝晴れエッセーに投稿したという。牧園さんは「もし、あのときのおじいさんがこの紙面を読んでくれていたら、『無事に病院に到着されたでしょうか。あの時は手助けをできずにすいませんでした』とお伝えしたいです」と話している。



