ライフ「マンジャロは危ない」に欠けた視点:米国GLP-1治療のリアルと医師が語る変化
米国GLP-1治療のリアル:医師が語る変化

日本の一部で「マンジャロは危ない」という声が上がる中、ボストン在住の日本人医師・大西睦子氏は、アメリカにおけるGLP-1治療のリアルな状況を語る。大西氏は内科医師・医学博士であり、米国での肥満治療の現場を長年見てきた。

肥満を「病気」と認めたアメリカの転換点

2013年、アメリカ医師会(AMA)は肥満を正式に「病気」と認定した。これは単なる見た目の問題ではなく、糖尿病、心血管疾患、慢性腎臓病、脂肪肝などにつながる慢性疾患として捉える重要な転機となった。GLP-1薬の登場により、この理解はさらに深まった。

以前の減量指導は「食べる量を減らしましょう」「運動を頑張りましょう」という個人の努力に依存するものだった。しかし現在は、「なぜ食欲が強くなるのか」「なぜ体重維持が難しいのか」という生物学的・環境的要因に注目が集まっている。研究の進展により、脳の報酬系、遺伝的要因、ホルモンバランス、睡眠の質、ストレス、生活環境など、体重は意志力だけでは説明できない複合的な要素で決まることが明らかになった。

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アメリカの健康格差と「自己責任論」を超えて

日本と大きく異なるのは、アメリカでは「健康的な生活を送ること自体が、誰にでも平等に与えられているわけではない」という認識が重視されている点だ。経済格差が大きく、仕事後にジムに通える人もいれば、夜勤や子育て、複数の仕事を掛け持ちする人もいる。低所得層ほど肥満率が高いことが知られており、健康的な食材へのアクセスや運動環境には大きな差がある。

大西氏は「同じ体重の問題を抱えていても、その背景は一人ひとり異なる」と指摘。近年は「肥満は自己責任か」という議論から、「どうすれば誰もが健康になれる環境を作れるのか」へと議論がシフトしつつあるという。

「痩身」から「病気予防」へ:GLP-1薬の役割の変化

現在、GLP-1薬を使う理由は「体重を減らしたい」だけではない。「心筋梗塞で倒れたくない」「腎臓を守りたい」「健康寿命を延ばしたい」という目的で使用する人が増えている。

大きな転機となったのは2023年に発表されたSELECT試験だ。約1万8000人を対象としたこの大規模試験では、GLP-1薬の一つであるウゴービ(セマグルチド)が心血管死のリスクや心筋梗塞、脳卒中の発症リスクを20%低下させることが示された。注目すべきは、対象者が糖尿病患者ではなかった点だ。

大西氏は「GLP-1薬は単なる痩身薬ではなく、代謝に良い影響を与え、心血管イベントを予防する薬としてのエビデンスが蓄積されている」と強調する。日本では「マンジャロは危ない」といった懸念も聞かれるが、アメリカでは肥満治療のパラダイムシフトが起きており、予防医療の観点からGLP-1薬が位置づけられている。

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