熱中症による救急搬送者数は2010年以降、夏季に5万人を超えるようになり、社会問題として注目を集めている。東洋大学健康スポーツ科学部の加藤和則教授は、長年の研究から、熱中症の重症化には血管の内側を覆う「血管内皮細胞」の損傷が深く関わっていると指摘する。
水分補給だけでは不十分な理由
加藤教授は、熱中症を単なる水分不足と捉えることの危険性を強調する。同教授は、熱で傷んだ血管を「穴の空いた水道管」に例え、いくら水を流しても漏れ出してしまい、必要な場所に届かないと説明する。実験では、体温に近い37℃では正常に機能していた血管内皮細胞が、40℃に達すると急激にダメージを受け、形態が変化し、やがて死滅することが確認された。
「こまめに水を飲みましょう」という一般的なアドバイスは正しいが、それだけでは不十分だと加藤教授は言う。水分や塩分の摂取に加えて、血管そのものを熱から守る対策が必要不可欠である。
熱中症研究の背景
加藤教授が熱中症研究に本格的に取り組んだのは約8年前。東洋大学が東京オリンピック・パラリンピックに向けた研究プロジェクトに参加したことがきっかけだった。2017年、文部科学省の「私立大学研究ブランディング事業」に採択され、同教授は熱中症対策研究の一翼を担うこととなった。
研究の過程で、熱中症の重症化には「構造的な障害」が存在することが明らかになった。血管内皮細胞が熱によって損傷を受けると、血管の透過性が亢進し、体液が血管外に漏出する。これが、重症化した熱中症患者で見られる循環不全や臓器障害の一因となる。
血管内皮細胞を守る対策
加藤教授は、血管内皮細胞を強化することで熱中症を予防できると主張する。同教授の著書『血管細胞を強くすれば熱中症は予防できる』では、血管を強くする3つの成分が紹介されている。具体的な成分名は明かされていないが、日常の食事やサプリメントで摂取可能なものだという。
「熱中症は血管をやられるんだよ」と加藤教授は語る。熱中症対策として、水分補給とともに血管の健康を維持することが重要であり、特に高温環境下での活動前後には血管を保護する栄養素の摂取が推奨される。
今後の課題
熱中症による救急搬送数は依然として高水準で推移しており、効果的な予防策が求められている。加藤教授の研究は、従来の水分・塩分補給に加え、血管内皮細胞の保護という新たな視点を提供する。今後の研究や啓発活動を通じて、熱中症による重症化や死亡を減らすことが期待される。



