高齢者や障害者に付き添い、介護付きの旅行を提供する神戸市須磨区のNPO法人「しゃらく」が設立20周年を迎えた。「還暦をエーゲ海で迎えたい」「生き別れの兄を見つけたい」など、延べ約7800人の依頼に応えてきた。代表理事の小倉譲さん(49)は「旅を諦めない」をモットーに、利用者の夢をかなえるために奔走している。
20年の歩みと利用者の声
5月には兵庫県多可町への日帰り旅行を実施。神戸周辺に住む80~90歳代の女性3人が参加し、スタッフが車いすの昇降機付き介護タクシーで自宅まで迎えに行き、乗降時には体を丁寧に支えた。この日のメインは和紙の紙すき体験で、参加者はスタッフと一緒に和気あいあいと作業を楽しんだ。
利用歴10年以上という三木市の吉田冨美子さん(94)は「物作りを体験したり、お土産を買ったりして旅は楽しい。プロの介助だから安心だし、しゃらくさんは、もう家族同然」と笑顔を見せた。
原点は祖父との旅行
小倉さんの活動の原点は22年前、祖父との旅行にある。当時87歳だった祖父は心臓病と認知症を患い、歩くのもやっとの状態だった。旅行を提案すると「もう死ぬから無理や」と断られたが、繰り返し誘うと「徳島県の神社に行きたい」とつぶやいた。祖父の故郷だった。
旅行会社に依頼するが全て断られ、自ら車を運転して神社へ向かった。到着すると、足腰が弱いはずの祖父は自力で階段を上り、神主と楽しそうに話した。その姿を見て「行きたい場所や目的があれば、人は元気になるんだ」と思った。その1年後、祖父は亡くなった。2006年、小倉さんは介護付きオーダーメイド旅行を提案する「しゃらく」を設立した。
不可能を可能にする取り組み
印象に残っているのは、「還暦の誕生日を、憧れのエーゲ海で迎えたい」という男性の依頼だ。両手足にまひがあり、移動はリクライニング機能付きの車いす、言語障害もあって言葉を話すのは難しい。ハードルは高かったが、半年かけて急病対策や移動計画を練り、2016年にイタリアのミラノやローマなどを巡る2週間の旅行を実現。念願のエーゲ海で男性は満面の笑みを浮かべた。
10年が経った今でも、男性は年数回の旅行を続けており、最近は車いすでジャズダンスにも挑戦している。旅をきっかけに挑戦の幅が広がっている。
また、「幼い頃に生き別れた兄の痕跡を捜したい」という90歳代男性の依頼では、国立国会図書館に通い詰め、文献の中で兄の名前を見つけて一緒に喜んだ。高齢夫婦から「どうしても先祖の三十三回忌を終えたい」と頼まれた時は、2人を背負って寺に続く階段を上った。
コロナ禍で利用者が激減し、事業をたたむことも考えたが、会員や生前に旅行へ参加した人の遺族からの寄付に救われた。小倉さんは「娯楽だけが旅行じゃない。人を捜したい、思い出の場所に行きたいというのも、旅の一つの形だと思う。これからも不可能の『不』を取るために、最大限の準備を尽くしていく」と語っている。



