90年代までの日本の企業食堂でビールが提供されていた背景には、高度経済成長期の労働慣行が深く関わっている。雇用ジャーナリストで株式会社ニッチモ代表取締役の海老原嗣生氏は、プレジデントの動画インタビューで、当時の社食にビールがあった理由を「長時間労働を助長するための福利厚生だった」と指摘する。
社食にビールがあった時代の労働慣行
海老原氏によれば、1960~70年代の日本企業は終身雇用と年功序列を前提とし、社員に長時間労働を強いる代わりに、社食でのアルコール提供や寮完備などの福利厚生で労働者を囲い込んでいた。ビールは単なる飲み物ではなく、残業後のリフレッシュや同僚との親睦を促進し、結果的に会社への帰属意識を高める役割を果たしたという。
しかし、1990年代以降のバブル崩壊とグローバル競争の激化により、こうした慣行は見直しを迫られた。社食からのビール撤去は、福利厚生のコスト削減とコンプライアンス強化の象徴的な出来事だった。
「働かないおじさん」の誤解
海老原氏は、いわゆる「働かないおじさん」と呼ばれる中高年社員について、「彼らは決して怠けているわけではない。年功序列制度の下で、能力以上のポストに就かされた結果、役割がなくなりやることがなくなっただけだ」と解説する。
「多くの企業では、管理職ポストが不足し、役職定年後に平社員に戻った社員が『お茶を飲んでいる』ように見える。しかし、彼らは長年の経験で培った暗黙知を持っており、適切な役割を与えれば十分に戦力になる」と述べ、企業側の人事制度の問題を指摘した。
定年制の必要性とその歴史
動画では、定年制の歴史についても議論された。海老原氏は「定年制は終身雇用を維持するための仕組みだった。企業は社員を60歳で定年退職させる代わりに、それまで安定した雇用を保証した」と説明する。
「定年制がなかった時代、企業は高齢社員を能力不足で解雇していた。定年制の導入は、高齢者を一律に退職させることで、若年層の雇用機会を確保する役割もあった」と述べ、定年制の社会的意義を強調した。
能力と無関係に上がる賃金のメカニズム
海老原氏は、日本の賃金体系が「能力ではなく年齢と勤続年数で決まる」問題を指摘。高度経済成長期には、企業の業績拡大と人口ボーナスを背景に、年功序列でも賃金上昇が可能だったが、経済が停滞した現在では、この制度が維持困難になっているという。
「正社員カップルは昇給する必要がない」という持論も展開。共働き世帯の増加により、家計全体の収入が安定しているため、個々の社員に大幅な昇給を求めるインセンティブが薄れていると分析した。
査制度の「積み上げ型」から「洗い替え型」への転換
海老原氏は、人事評価制度の改革として「積み上げ型」から「洗い替え型」への移行を提唱する。積み上げ型は過去の実績や勤続年数を重視するのに対し、洗い替え型は毎期、現在の能力と成果のみで評価する。
「洗い替え型にすることで、年功序列の弊害を取り除き、若手や中途社員の能力を正当に評価できる。しかし、導入には経営陣の強いリーダーシップが必要だ」と述べた。
日本の労働組合の課題
海老原氏は、日本の労働組合が「産業別ではなく企業別に組織されているため、組合が経営側と協調しすぎて、労働者の権利を十分に守れていない」と批判する。
「欧米のような産業別組合であれば、同一労働同一賃金の実現や、業界全体の賃金底上げが可能だが、日本では企業ごとに交渉が行われるため、格差が固定化されやすい」と指摘した。
リスキリングで給与アップは幻想
最後に海老原氏は、政府が推進するリスキリング(学び直し)について、「本当に給与アップにつながるかは疑問」と述べる。
「日本企業の多くは、社員が新しいスキルを習得しても、それを評価する人事制度やポストが用意されていない。リスキリングは個人のキャリアアップには有効だが、給与に直結するとは限らない。企業側の制度改革が伴わなければ、絵に描いた餅になる」と警鐘を鳴らした。
この動画の後編では、さらに具体的なキャリア形成の方法や、企業の人事制度改革の事例が紹介される予定だ。



