営業時代に、常にトップセールスの後輩に同行したことがある。彼はお客様相手に、お世辞を言いまくっていた。「こんな素敵な町に住めるなんてうらやましいです!」「こちらのお宅、御殿みたいですね! こんなお宅にいつか住みたいという夢ができました!」――こんな見え透いたお世辞は通じるのかと思いつつ、お客様の顔を見るとまんざらでもなさそうだった。
商談を終えて車に戻ってから、半分嫌味を交えながら「あんなミエミエのお世辞を、よく言えるよね。嫌がる人とか、怒る人とかいるでしょ」と言うと、後輩は「何を言っているんですか。たまに嫌がる人はいるけど、基本的にはどんなにミエミエでも、みんな喜んでくれますよ。ほめて怒る人は僕とはもう相性が合わない人。気楽にほめることができるから僕はトップセールスなんですよ」と答えた。
なるほど。気楽に褒めることができる彼と、褒め言葉を全然言えない私の違いが、大きな成績の違いなのかも。なかなかの衝撃だった。
ミエミエでも喜ばれる理由
「ただねえ、さっきの町が良い地域だとか、お客さんの家の造りは御殿だとか、私にはとうてい見えないのに、よく言うなあと思ってさ」とさらに問うと、後輩は「いえいえ、お客様が本人的には気に入って住んでいる町と家だったら、ほめられてうれしいでしょう。何がヒットするかわからないから、思いついたことをいろいろ言ってみるだけですよ」と返した。
一般社団法人日本聴き方協会代表理事の松橋良紀さんは、「お世辞がうまい人は、周りがどう思おうが、本人が事実だと思ったことを口にしているだけだから相手に響く。ミエミエの褒め言葉でも潜在意識を揺り動かす力は十分にあるため、どんどん使ったほうがいい」と指摘する。



