転勤を巡る企業の対応が変わりつつある。若い世代が「本気で嫌だ」と拒否感を強める中、大手企業は手当の拡充や転勤区分の見直しに乗り出した。
大成建設、最大100万円の転勤手当を新設
大成建設は昨年7月、転居を伴う異動を対象に最大100万円の転勤手当を新設した。異動先までの距離と家族帯同の有無で金額を決め、引っ越し代などとは別に支給する。
同社法務部の竹下匠さん(30)は昨年11月、長野県から東京・新宿の本社へ家族連れで異動し、「破格」の転勤手当を受け取った。「これだけインパクトがあれば、家族も異動にネガティブな気持ちになりにくい」と話す。
人事部の緒方文香さん(38)は「人事部側の提案を経営層が押し戻す形で金額が上がっていった」と明かす。
青山商事、全国転勤を事実上廃止
青山商事は2018年に「全国」「エリア限定」「転居なし」の3種類の社員区分を導入した。「転居なし」を選ぶ社員は導入時の3割程度から5割に増え、今年7月から「エリア限定」「転居なし」の2区分に改めた。
人事部長の則包淳一さん(50)は「地域で人を採用し、育て、輝いてもらう発想に変える」と話す。
クボタ、1対1の面談で納得感を
売上高の約8割を海外が占めるクボタは、コロナ禍を機に管理職に月1回、部下と1対1での面談を求めている。人財開発部長の谷口慶太さん(51)は「辞令1枚で行ってもらえる時代とは思っていない」と話す。
転勤制度の背景と課題
転勤制度は高度経済成長期以降、日本企業の人材育成や全国展開を支えてきた。長期雇用を前提に幹部候補を育てる日本型雇用の「潤滑油」でもあった。
しかし、共働き世帯が当たり前となり、リモートワークの普及も進む中で、会社が一方的に「働く場所」を決める時代は転機を迎えている。マイナビの今年の調査では、転職希望者の68.8%が「転勤のある会社で働きたくない」と回答。前年から3.5ポイント増え、20歳代では76%に上る。東京商工リサーチの昨年の調査では、大企業の38%が転勤を理由とした退職を経験していた。
転勤を研究する京都産業大教授の藤野敦子さん(59)は「日本の転勤制度は家族に負担を甘受させることで成り立ってきた。専業主婦世帯が主流の時代はうまく回ったが、女性の社会進出が進み、前提が崩れた。最近は若い世代が本気で『嫌だ』と言い始めており、転勤見直しの流れは止まらない」と指摘する。
共働き世帯の増加と妻の再就職支援
内閣府によると、共働き世帯は1990年代に専業主婦世帯を逆転。2025年は1254万世帯で専業主婦世帯の3.5倍に上る。
夫の転勤に同行する女性らのコミュニティー「キノコム」の山口由香子代表は、「転勤族の妻が離職すると、再就職時に『長く働けないね』とみられ不利になる。会社が妻の再就職を支援するなど対応が必要ではないか」と訴える。
リクルートワークス研究所が24年に日米欧中の正社員に行った調査では、「本人の同意なしで転居を伴う勤務地変更がある」と答えた割合は日本が24%で最も高く、米国11.7%、フランス10.2%を大きく上回った。
同研究所の萩原牧子主幹研究員は、「他国は会社からの打診でも本人の同意を得て異動を決めている。日本型雇用は、働く場所や労働時間が『無限定』な人材を会社が一括で管理してきたが、時代に合っていない。異動が必要な場合は理由や『いつまでか』を丁寧に説明し、個人の同意を得た上で人を動かしていくことが一層求められる」とする。



