滋賀県日野町郊外の田園地帯にある近江鉄道朝日野駅。2026年7月1日夕方、町外で仕事を終えた女性(76)が電車から降りると、「公共ライドシェア」の車両が待っていた。町がこの日始めた今年度の試みで、午後5時から7時まで運行される。女性の夫は自宅で転倒して骨折し、車での送迎ができない。町の乗り合いタクシー「チョイソコひの」は午後5時までで、逃すと交通手段はない。町民は400円で乗れ、女性は「別の駅からタクシーで帰ると3000円はかかる。本当にありがたい」と語る。
日野町の交通事情と町の取り組み
日野町では民間のタクシーや町営バスが土日は運行しないなど、利便性が低い。町はバスを3路線減らし、チョイソコひのを拡大。空白の時間を補うため、2024年度からライドシェアも段階的に試行している。堀江和博町長は「地域の営みが失われてはならない。生活し続けてもらうには今の枠組みが欠かせない」と強調するが、バスと乗り合いタクシー、ライドシェアに加え、上下分離(公有民営)となった近江鉄道の維持管理負担金も合わせて、2025年度の費用は約1億7000万円に上り、負担は重い。
交通空白の実態と交通税の提案
人口減や高齢化を背景に、県内では日野町のような交通空白が生じている。国土交通省のまとめでは、2026年5月時点で全国に2740か所あり、県内には甲賀、草津、守山、米原市と日野、竜王町の計6市町に存在する。こうした地域を念頭に、三日月大造知事が提唱するのが交通税だ。知事は県税制審議会に「地域公共交通を支えるための税制」の導入可能性を諮問。2022年4月に「具体的に挑戦すべき」との答申を受け、同年の知事選で交通税の検討推進を掲げて3選した。
交通税の具体像と県民の反応
3期目では、県の「滋賀地域交通計画」に交通税を盛り込む方向で具体像を議論。しかし、計画の素案には県民から反対や慎重な意見が相次ぎ、県議会も「導入に固執せず」と求める決議を可決した。知事は今回の選挙公約では交通税の言葉を使わず「新たな税」とトーンダウン。一方、街頭演説では「交通税があればどういう社会になるか、今のうちから考えたい」とし、導入に強い意欲をにじませる場面もあった。
交通税について、県税制審は県税に上乗せする課税を基本とし、個人・法人両方への課税が適当としている。県は、県民が均等に負担する場合は1人あたり年400~2700円との「機械的試算」を公表した。知事は3期目に交通税の「絵姿(中身)を示す」と繰り返したが、具体的には何も決まっておらず、県民の理解が深まっているとは言えない。4期目に全19市町でタウンミーティングを行うなど、交通税への理解を得たい考えだ。
県議会の対応と今後の課題
課題は県議会への対応だ。導入には県議会で条例案が可決される必要があるが、最大会派・自民党は現時点で反対している。県議団幹部は「今の計画のまま交通税を取るのは無理がある」とし、来年の県議選で自民が単独過半数を得れば、否決も可能になり、議論の行方は大きく左右される。物価高騰が続く中、新しい税負担への抵抗感を拭い去るのは容易ではない。知事には県民や県議会と、今まで以上に丁寧な議論を重ね、合意形成を図る姿勢が求められる。



