米国西部カリフォルニア州とネバダ州の境に位置するリゾート地、タホ湖。湖周辺の常住人口は約5万人だが、夏はウォータースポーツ、冬はスキーを楽しむために年間約2500万人が訪れる観光名所でもある。このタホ湖でも現在、急増するデータセンター(DC)の影響による電気代高騰が問題となっている。
湖の近くに住むジェン・ヘイチさん(76)は夫婦で暮らしながら、不安を募らせる。「物価はすでに上がっているし、電気代がそれほど上がらないことを願うしかない」。ヘイチさんはロサンゼルスで教師をしていたが、自然豊かな環境に惹かれて40年前に移住。その後、不動産業を営み退職した。現在の月々の電気代は約200ドル(約3万2000円)で、これ以上の負担増は家計を圧迫する。
電気代値上げの可能性と住民の懸念
タホ湖周辺に電力を供給するリバティー・ユーティリティーは、2027年以降に電気代を引き上げる可能性があることを明らかにしている。同社は隣接する地域で急増するデータセンターへの電力供給を余儀なくされており、そのコストを利用者に転嫁せざるを得ない状況だ。住民からは「もっと議論の時間が必要だ」との声が上がっている。
この現象はタホ湖だけにとどまらない。全米各地でAI(人工知能)需要の高まりを背景にデータセンターの建設ラッシュが続いており、米国経済を支える一方で、急激な増加は地域住民との摩擦を生んでいる。特に、電力消費の増大による電気代高騰や、騒音、二酸化炭素(CO2)排出、排熱などの環境問題が顕在化している。
自治体によるモラトリアムの広がり
こうした事態を受け、米国の複数の自治体がデータセンターの新規建設を一時停止する「モラトリアム(猶予期間)」を導入し始めた。例えば、バージニア州の一部地域では、データセンターの集中による送電網への負荷や環境影響を評価するため、建設許可の発行を停止している。また、ネバダ州リノ市周辺でも、大規模なデータセンター計画に対して住民から反対の声が上がり、市議会が審議を一時凍結するケースが出ている。
「データセンター・ラッシュ」と呼ばれるこの現象は、AI技術の進展と不可分だ。AIモデルの学習や推論には膨大な計算リソースが必要であり、それを支えるデータセンターの需要は今後も拡大すると見込まれている。しかし、その一方で、地域社会への負荷が無視できなくなっている。
経済効果と地域摩擦のジレンマ
データセンターは雇用創出や税収増などの経済効果をもたらす一方、電力消費が極めて大きい。米国エネルギー省の試算によれば、データセンターの電力消費量は2020年から2030年にかけて2倍以上に増加する可能性がある。これにより、地域の送電網が逼迫し、一般家庭や中小企業の電気代が高騰するリスクが指摘されている。
タホ湖の事例は、観光地としての魅力とデータセンターの立地が衝突する典型例だ。リゾート地の静かな環境や自然景観を守りたい住民と、経済発展を優先する事業者や自治体の間で調整が難航している。ヘイチさんのように、移住してきた住民にとっては、生活の質を脅かす変化に不安を感じるのは当然だろう。
連載「データセンター・ラッシュ ~AIで熱狂する米国~」では、こうした現場の実情を3回にわたって報告する。次回は、米最大の塩湖で進むデータセンター計画と、そこでの環境問題について詳報する。



