今年末で任期が満了する国連のアントニオ・グテレス事務総長の後任選びが本格化している。人選を左右するのは、拒否権を持つ米英仏露中の安全保障理事会常任理事国5か国の意向で、「密室の政治劇」とも呼ばれる。
中南米出身者が軸、初の女性も注目
国連事務総長は、最高責任者として事務局や国連全体の活動を監督・主導するだけでなく、紛争解決に向けた仲介役も担う。国連が発足して現職のグテレス氏が9人目だ。
拒否権を持つ常任理事国が意思決定を握る中、強制力のある権限は限られ、課題を解決するための説得力や調整力が求められる。就任後も利害が対立する大国の顔色をうかがいながら、難局を乗り切る外交手腕を問われる。
今年は7月30日から安保理での非公式投票がスタートし、10月にも新事務総長が選出される。任期5年で、2期10年務めるのが通例となっている。
立候補者は7人、うち4人は女性
名乗りを上げたのは、ラファエル・グロッシ国際原子力機関(IAEA)事務局長(アルゼンチン)ら7人。うち4人は女性。女性事務総長が誕生すれば史上初だ。地域的な持ち回りが慣習で、5人が今回、順番とされる中南米・カリブ地域の出身だ。立候補者は13人が立候補した前回の半数で、さらなる参戦も予想される。
候補者は安保理で選考され、理事国15か国のうち9か国以上の支持が必要となる。常任理事国5か国の拒否権を受けないことが必須条件だ。安保理は数か月かけて非公式投票や審議を重ね、支持の広がらない候補に自主的な辞退を促すなどして1人に絞り込み、勧告する。
秘密投票と裏取引の実態
5か国は通常、自分が支持する候補を明らかにしない。投票は匿名で結果は公表されず、候補者にも部分的にしか告げられない。投票後、投票用紙はシュレッダーにかけられる。元国連幹部によると、秘密投票を重ねて他国の意向を探りながら合意形成を図ることで、大国同士の対立を避ける狙いがある。1981年に拒否権合戦が起きた苦い経験を教訓にしたものだ。米中が互いに相手が推す候補に拒否権を行使し、16回の投票でも決着せず、共倒れした。
選ばれた候補は、国連総会が正式に任命するが、総会が安保理の勧告を覆した例はない。選考は常任理事国の密室での駆け引きがカギを握る。
前回から候補者への公開ヒアリングが導入され、選考過程の透明化に向けて一定の改善が図られた。だが、「常任理事国は特権を手放す気はない」(韓国の車智勲国連大使)ため選考方法は大きく変わらない。
常任理事国の影響力と今後の展望
第6代事務総長のブトロス・ガリ氏は96年、米国の単独の拒否権で再任を阻まれた。
6月に国際NGOの共同組織が発表した報告書で、常任理事国が事務総長選出の舞台裏で自国に有利な裏取引を進めている実態が明らかになった。5か国がそれぞれ立候補者への支持と引き換えに、政治担当の事務次長や平和維持活動(PKO)トップなど上級職に自国民を就けるよう約束させていた。グテレス氏を含む歴代の事務総長が応じてきた可能性を指摘した。
米フォーダム大のアンジャリ・ダヤル准教授は「選ばれる候補者は全ての常任理事国に反感を持たれない、当たり障りのない人物だ。今回の選考では、かつてなく難しいバランス感覚が求められる」と指摘する。
冷戦期は米露が妥協できる人選でしのげた。米国の意向が予測できない今回は難航が予想される。強権的な色合いを強める米露が同じ候補を推して英仏と対立するという異例の展開もありえる。国連で影響力を強める中国の動向にも注目が集まる。



