9・11から25年、NYで初のイスラム教徒市長誕生 差別と偏見の現在
9・11から25年、NYで初のイスラム教徒市長誕生 差別と偏見の現在

2001年の米同時多発テロ事件後、米国内では反イスラム感情が高まり、イスラム教徒への差別や嫌がらせが横行した。現場の一つであるニューヨーク(NY)では、今、イスラム教徒が市長を務めるまでになった。何が変わり、何が変わっていないのか。

モスクに響く祈り、キッチンカーに並ぶ人々

今月4日の昼過ぎ、マンハッタンにあるモスクでは、多くの人が集まる金曜礼拝の祈りの声が響いていた。礼拝を終えたエジプト出身のウィリーさん(45)は交差点を渡り、自らのキッチンカーへ向かう。近くのオフィスで働く人や礼拝を終えた人が列をつくった。

売られていたのは、NY名物として浸透している中東ゆかりの「チキンオーバーライス」。イスラム教の戒律に配慮したハラールの食事でもある。06年に米国へ移住したウィリーさんは「いろいろな出自の人が暮らす街で、自由もあり、子どもたちに教育も受けさせられる。私は良い生活を送らせてもらっている」と話し、テロの影響による差別を感じることはあまりないという。

Pickt横長バナー — Telegram用の共同買い物リストアプリ

初のイスラム教徒市長、就任の背景

同時多発テロはイスラム過激派アルカイダが実行したため、イスラム教徒がひとくくりにされ、米国内ではヘイトクライムが増えた。連邦捜査局(FBI)の統計によると、事件のあった01年は前年の28件から481件に急増。ヒジャブ着用を職場で許可しないといった差別もあり、NY市警がモスクなどを長年監視していたことも問題になった。

あれから25年。ゾーラン・マムダニ氏(34)がイスラム教徒として初めてNY市長に就任した。宣誓式では聖典コーランに手を置き、断食月「ラマダン」には市役所内で関連行事を開き、「イスラム教徒であることとニューヨーカーであることは矛盾することではない」と語った。物価高や既存政治への不満が当選の背景にあるが、NYのイスラム教史に詳しいケイティー・メリマン博士(40)は、イスラム教徒コミュニティーがテロ後の偏見に抵抗し続けた結果だともみる。

メリマン博士は「対応が間違っていた、権利を侵害していた、と認識ができるまでこれだけの時間がかかった。マムダニ氏の市長就任は、こうしたことを乗り越えて新たな段階に入ったと言える」と語る。

根強いイスラム嫌悪と二極化

一方で、メリマン博士は「イスラム嫌悪がなくなったわけではない」と危機感をにじませる。自身はイスラム教徒ではないが、事件後に偏見を目の当たりにし、宗教や少数派であることを理由に疎外される動きについて研究してきた。14年からはイスラム系団体で活動した黒人指導者マルコムXのゆかりの地やモスクを巡りながらイスラム教の歴史を学ぶツアーを主催している。

ピュー・リサーチ・センターが5月に行った調査では、「イスラム教徒が国に悪い影響を与えている」と答えた人は42%に上り、「良い影響」の17%を上回った。1月の調査では「イスラムは他の宗教より暴力を促す」と答えた割合が約半数で、02年の25%から上昇。共和党支持者と民主党支持者の差が大きく「二極化が進んでいる」としている。

追悼式典をめぐる対立

四半世紀の節目に開かれる追悼式典を前に、一部の遺族がマムダニ氏の出席に反対する運動を始め、10万を超えるネット署名が集まった。事件当時のジュリアーニ元市長もメディアで「(出席は)不快だ」と述べた。これに対し、別の遺族グループは「イスラム嫌悪の感情を強く非難する」との声明を出すなど反発も起きた。

Pickt記事後バナー — 家族イラスト付きの共同買い物リストアプリ

マムダニ氏は7日、元市長の発言への受け止めを問われ「この街の市長であることが誇りだ」と語り、「焦点を当てるべきは、恐ろしいテロ行為で愛する人を奪われた遺族のみなさんだ」と述べ、追悼式典への出席を改めて明言した。