クーデター未遂から10年、トルコが強い指導者を求めた背景と社会の変化
クーデター未遂から10年、トルコの強い指導者志向と社会変化

2016年7月15日に発生したクーデター未遂事件から、2026年で10年を迎える。この事件はトルコ現代史における最大級の転換点となり、その後、同国は大統領に強い権限が集中する体制へと移行した。この変化がどのように進み、社会に何をもたらしたのか。ジェトロ・アジア経済研究所地域研究センター中東・南アジアグループ長でトルコ政治に詳しい今井宏平氏に聞いた。

クーデター未遂がもたらした政治的転換

今井氏は「16年のクーデター未遂は、10年代のトルコ政治を見るうえで最大級の転換点だった」と語る。エルドアン大統領は2014年に直接選挙で大統領に選ばれた直後から権限強化を主張していたが、当時は十分に受け入れられていたとは言えなかった。多くの国民は、大統領は首相とは異なり、中立的な存在であるべきだと考えていた。

しかし、クーデター未遂事件がその空気を一変させた。国民の間で強い指導者を求める意識が高まり、エルドアン氏の権限強化への支持が急速に拡大した。この結果、2017年の国民投票で大統領制への移行が承認され、2018年から新制度が施行された。

Pickt横長バナー — Telegram用の共同買い物リストアプリ

強権体制への移行と社会への影響

新体制では大統領が行政権を掌握し、首相職は廃止された。大統領令による立法も可能となり、権力の集中が進んだ。今井氏は「この変化は、クーデター未遂後の安全保障上の脅威認識と、エルドアン氏への信頼が結びついた結果だ」と分析する。

社会面では、クーデター未遂後、非常事態宣言が2年間継続され、大規模な粛清が行われた。公務員や軍人、司法関係者など約13万人が職を追われ、約5万人が逮捕された。これにより、政府批判が困難な空気が生まれ、メディアの自由も制限された。

国民意識の変化と今後の展望

今井氏は「クーデター未遂は国民の間に『強いリーダーシップが必要だ』という意識を定着させた」と指摘する。特に、シリア難民の流入や経済不安、テロの脅威など、複合的な危機が続く中で、安定をもたらす指導者が求められた。

しかし、近年は経済悪化やリラ安、インフレの進行により、エルドアン政権への不満も高まっている。2023年の大統領選挙では、エルドアン氏は決選投票の末に再選されたものの、得票率は50%をわずかに上回る程度だった。

今井氏は「トルコ社会は依然として強い指導者を支持する傾向があるが、経済状況が悪化すれば、その支持も揺らぎうる」と述べ、今後の動向に注目する必要があると強調する。

国際関係への影響

クーデター未遂後のトルコは、外交面でも変化を見せた。米国やEUとの関係が緊張し、ロシアや中東諸国との接近が進んだ。特に、シリア北部での軍事作戦や、東地中海でのエネルギー探査をめぐるギリシャとの対立など、強硬な姿勢が目立つ。

NATO加盟国であるトルコがロシアからS-400地対空ミサイルシステムを購入したことは、米国との関係悪化を招いた。これにより、トルコはF-35戦闘機計画から除外され、米国から制裁を受ける事態となった。

今井氏は「トルコは独自の外交路線を追求する一方で、経済的な困難から西側との関係改善も模索している」と分析する。

10年を経ての総括

クーデター未遂から10年、トルコは政治体制、社会、外交の各面で大きな変貌を遂げた。強い指導者を求めた国民の意識は、エルドアン氏への長期政権を許容したが、その結果として民主主義の後退や権威主義化が進んだとの批判もある。

今井氏は「トルコの事例は、危機の際に強いリーダーシップが支持される一方で、その後の権力の集中がもたらすリスクを示している」と述べ、今後のトルコの行方を注視する必要があると結論づけた。

Pickt記事後バナー — 家族イラスト付きの共同買い物リストアプリ