2027年、中国は本当に台湾へ侵攻するのであろうか。日本で広がった「台湾有事」が起きるとする27年まで半年を切った。しかし、目白大学准教授の五十嵐隆幸氏は、この見方に疑問を投げかけている。
21年3月、米インド太平洋軍司令官フィリップ・デービッドソンは、アメリカ議会で「今後6年以内」に中国が台湾へ武力侵攻する可能性があるとの見方を示した。この発言をきっかけに、日本では「2027年侵攻説」が急速に広まり、「2027年台湾有事」という言葉は瞬く間に社会へ浸透していった。テレビや新聞では台湾海峡の危機が繰り返し報じられ、企業では事業継続計画(BCP)の見直しが進み、自治体では住民避難計画の策定も始まった。あれから5年以上が過ぎたが、デービッドソン発言から始まった「2027年侵攻説」は、いまなお既成事実であるかのように語られている。日本社会では、「中国は2027年までに台湾へ侵攻する」という前提で語られることの方が多く、「本当にそうなのか」と問い直す議論は驚くほど少ない。
安全保障のレンズだけで見る危うさ
五十嵐氏は、台湾海峡問題を「安全保障」の観点だけで見ることの危うさを指摘する。近年、「地政学」や「地経学」といった言葉が広く使われるようになったが、台湾海峡を語るとき、安全保障の専門家が中国軍の動向を解説し、中国軍機の飛行回数や艦艇の活動、ミサイルの射程、第一列島線の戦略的重要性が語られ、中国は危ない、台湾有事は近いという話へとつながっている。しかし、安全保障はあくまで「台湾問題」の一部にすぎないという。
軍事力や地理的条件だけでは台湾海峡の情勢を理解することはできない。その視点だけで見れば、台湾海峡は危険な場所に映る。だが、中国と台湾の対立は、単なる軍事問題でも、領土問題でもない。国共内戦以来、70年以上にわたって続いてきた政治的な対立であり、台湾問題は日米も関わってきた歴史的な問題でもある。そして、これらの間には戦争を回避してきた安定のメカニズムも存在してきた。
中国が踏む2つのアクセル
五十嵐氏は、中国が台湾統一へ向けて踏む2つのアクセルとして、「武力行使」と「平和統一」の両面を挙げる。中国は台湾統一の手段として武力を用いることは否定していないが、攻めるとも明言していない。むしろ、中国は「平和統一」を優先する姿勢を示してきた。しかし、日本では「2027年侵攻説」が一人歩きし、中国の軍事力増強だけが注目されがちだ。
問題は、「台湾有事」が起きるかどうかではない。台湾海峡をどう見るのか。いま問うべきは、その見方そのものである。五十嵐氏は、こうした冷静な議論の必要性から、新著『台湾有事――歴史・軍事・安定のメカニズム』(中公新書、7月23日発売)を上梓した。



