中国では電気自動車(EV)への注目が集まる一方、水素燃料電池市場が急速に拡大している。中国政府は2025年までに水素ステーションを約1000カ所設置し、燃料電池車(FCV)を5万台普及させる目標を掲げる。2021年には水素エネルギー産業発展のための青写真を発表し、2035年までに100万台のFCV普及を目指す長期的な計画も示している。
水素燃料電池市場の規模と成長率
中国水素産業連盟によると、2022年の中国の水素燃料電池市場規模は約300億元(約6000億円)に達し、前年比で約50%増加した。2025年には1000億元(約2兆円)を超えると予測されている。市場成長の背景には、EVに偏重しないエネルギー戦略の必要性がある。
中国は世界最大の水素生産国であり、年間約3300万トンの水素を生産する。しかし、そのほとんどは化石燃料由来の「グレー水素」であり、再生可能エネルギー由来の「グリーン水素」の割合はわずか1%未満だ。政府はグリーン水素の比率を2030年までに15%に引き上げる目標を掲げている。
地方政府の補助金競争
中国では中央政府に加え、地方政府も積極的に水素産業を支援している。例えば、北京市は2023年、水素燃料電池トラックの購入に対し、1台あたり最大80万元(約1600万円)の補助金を発表した。上海市は2025年までに水素ステーション70カ所、FCV1万台の普及目標を掲げ、関連企業に税制優遇措置を提供している。
広東省佛山市は「水素谷」構想を推進し、2025年までに水素関連産業で1000億元(約2兆円)の生産額を目指す。同市はすでに水素燃料電池バスを約1000台導入し、中国最大のFCVバスフリートを運営している。
主要企業の動き
中国の大手エネルギー企業や自動車メーカーも水素事業に参入している。中国石油化工集団(Sinopec)は2025年までに水素ステーションを1000カ所建設する計画で、2023年末時点で約200カ所を運営する。また、同社はグリーン水素製造プロジェクトにも投資している。
自動車メーカーでは、長城汽車(Great Wall Motors)が水素燃料電池システムの開発を進め、2023年に水素燃料電池SUV「モック・ハイランド」を発表した。上海汽車集団(SAIC)も水素燃料電池バスやトラックを量産し、海外市場への輸出を開始している。
課題と展望
しかし、中国の水素燃料電池市場には課題も多い。まず、水素ステーションの建設コストは1カ所あたり約1500万元(約3億円)と高く、普及の障壁となっている。また、水素の輸送・貯蔵コストも高く、燃料電池車の価格は同等のEVより約30%高い。
さらに、中国政府の補助金はEV向けに重点配分されており、水素燃料電池向けは限定的だ。2023年の補助金総額は約50億元(約1000億円)で、EV向けの約10分の1に過ぎない。
それでも、中国の水素燃料電池市場は長期的な成長が期待されている。国際エネルギー機関(IEA)の報告書によると、中国は2030年までに世界の水素需要の約30%を占めると予測される。中国政府の炭素中立目標(2060年)達成に向け、水素エネルギーは重要な役割を果たすとみられる。
中国水素産業連盟の張理事長は「水素燃料電池は長距離・大型車両向けにEVを補完する技術として不可欠だ。今後5年でコストが大幅に低下し、EVと同等の競争力を持つだろう」と述べている。



