中国の習近平国家主席・党総書記が2026年6月8~9日、7年ぶりに北朝鮮を訪問した。北朝鮮は金正恩総書記がほぼ全日程に同行するなど、熱烈な歓迎ぶりを示した。今回の訪朝をめぐる中朝両国の真の狙いはどこにあるのか。北朝鮮の実情に精通する、元公安調査庁調査第二部長などを務めた坂井隆氏に、朝日新聞記者の箱田哲也氏が聞いた。
「肩を組んで血みどろの戦い」再び
箱田:習国家主席が訪朝しました。メディア報道が先行していたものの、日韓両政府には時期や目的をめぐって一部に慎重な見方が出ていました。中朝双方の報道などを見て坂井さんはどこに注目していますか。
坂井:両国の友好関係は「社会主義」および「伝統」を基礎として特別であり、流動的な国際情勢にもかかわらず「不変」であることを両首脳が繰り返し強調したことです。金正恩氏は「友好の伝統によって特殊であり、共通の社会主義偉業によって特殊であり、変わらない継承によって特殊である朝中両国関係の不変性」に言及し、「最も強力で戦略的な社会主義国家間関係」を目指すと述べました。
習近平氏も、訪朝前日に朝鮮労働党機関紙「労働新聞」に掲載された寄稿文の中で「両国は互いに守り助け合い、運命を共にする親善的な社会主義隣邦」であり、「両国人民は喜びと悲しみを共に分かち合い、生死を共にして血によって偉大な戦闘的親善を結びました」と述べ、両国関係の特殊性を強調しています。
また、訪朝中も「国際情勢がいかに変わろうと、伝統的な中朝友好を非常に重視する中国の党と政府の確たる立場は変わらない」と主張し、「生死苦楽を共にしてきた両国人民の偉大な友好」にも改めて言及しました。
「非核化」に予防線を張った北朝鮮
箱田:前々回の記事で、2026年4月に中国の王毅外相が訪朝した際、実利追求が強調されたのに対して「血潮で結ばれた」といった表現は控えているとの指摘がありましたが、今回は復活したのですね。
坂井:両首脳は、朝鮮戦争に参戦した中国人民志願軍を顕彰する平壌市内の「友誼塔」を参拝しました。金正恩氏は、習近平氏に同塔内の「朝鮮人民と肩を組んで血みどろの戦いを繰り広げた(略)中国人民志願軍勇士の姿を見せる史料と写真、油絵作品について紹介」したと報じられました。これら一連の表現は、近年、両国が示してきた正常な国家間関係、「国益」重視といった傾向とは対照的です。
箱田:非核化問題についてはどのようなやり取りがあったとみていますか。
坂井:北朝鮮側は、非核化に関する具体的な言及を避けつつ、朝鮮半島の平和と安定を強調したとみられます。金正恩氏は「朝鮮半島の平和と安定は朝中両国の共同の利益」と述べるにとどめ、自国の核開発を放棄する意思は示しませんでした。一方、習近平氏も「中国は朝鮮半島の平和と安定を支持する」と述べたものの、非核化への具体的な圧力はかけなかったと分析されます。
中朝関係は「新しい章」へ
今回の首脳会談で、両国は「新しい章」を開くことを宣言しました。具体的には、経済協力の拡大や、国際問題での連携強化が合意されたとみられます。しかし、北朝鮮の核・ミサイル開発が続く中、非核化が棚上げされたままでは、国際社会の懸念は拭えません。
坂井氏は「両首脳は表面的な友好を演出しながら、それぞれの思惑で動いている。中国は北朝鮮を国際社会から孤立させずに自国の影響下に置きたい。北朝鮮は中国の後ろ盾を得て核開発を継続したい。この危うい共闘が続く限り、朝鮮半島の非核化は遠のく」と指摘します。
今後の焦点は、両国が実際にどのような協力を進めるのか、そして北朝鮮が非核化に向けて具体的な行動をとるかどうかにあります。



