ファイナンシャル・プランナーの井戸美枝氏は、高金利時代においても年金の繰下げ受給を推奨している。現在、年金の受給開始年齢は原則65歳だが、60歳から75歳までの間で選択可能だ。65歳前に受給を開始する「繰上げ受給」では年金額が減額される一方、65歳以降に開始する「繰下げ受給」では増額される。井戸氏によると、実際に65歳以降に受給を開始する人は全体のわずか1~2%に過ぎないという。
繰下げ受給のメリットと損益分岐点
繰下げ受給では、1年間受給を遅らせるごとに年金額が8.4%増加する。この増加率は高金利時代の運用利回りを上回る可能性が高く、井戸氏は「早めに年金を受給して運用するよりも、繰下げ受給で確実に増額する方が有利」と指摘する。ただし、損益分岐点を考慮する必要があり、受給開始を遅らせた場合、元を取るまでに一定の年数がかかる。井戸氏は「平均寿命を考慮すれば、多くの人にとって繰下げ受給が総受給額を最大化する」と説明する。
在職老齢年金の改正で働きながら満額受給も
2022年の法改正により、在職老齢年金の仕組みが変更され、60歳以上で働きながら年金を受給する場合の減額基準が緩和された。これにより、一定の収入があっても年金を満額受給できるケースが増えた。井戸氏は「働きながら年金を受け取る場合、改正前は減額されることが多かったが、現在はより多くの人が満額受給できるようになった」と述べている。この改正は、繰下げ受給と組み合わせることで、さらに効果的な老後資金計画を可能にする。
高金利時代の年金戦略
長らく続いたゼロ金利・マイナス金利時代が終わり、金利上昇局面に入ったことで、預貯金や運用商品の利回りが向上している。しかし、井戸氏は「年金を早く受け取って運用するよりも、繰下げ受給で増額した年金を受け取る方がリスクが低く、確実」と強調する。また、私的年金(確定拠出年金など)の運用環境も改善しており、法改正により運用商品の選択肢が広がった。井戸氏は「老後資金を増やすには、公的年金の繰下げ受給と私的年金の運用を組み合わせるのが理想的」とアドバイスする。
具体的な受給開始年齢の選び方
井戸氏は、健康状態や生活費、退職金などの資産を考慮した上で、繰下げ受給を検討するよう勧めている。例えば、健康で長生きする可能性が高い人は、75歳まで受給を遅らせることで年金額を最大84%(10年繰下げで84%増)増やせる。一方、健康に不安がある場合や、早期に資金が必要な場合は、65歳受給や繰上げ受給も選択肢となる。井戸氏は「自分自身のライフプランに合わせて、最適な受給開始年齢を選ぶことが重要」と結論づけている。



