東京駅で購入したチキン南蛮弁当は税込990円。この価格を長年据え置いている背景には、10年前のある決断があった。塚田農場を運営するAPHDグループの弁当事業「塚田農場おべんとラボ」は、コロナ禍で居酒屋事業が苦戦する中、独自の戦略で成長を遂げた。
Zoom飲み会で企業需要を開拓
コロナ禍で多くの居酒屋が打撃を受ける中、塚田農場おべんとラボは新たな需要を開拓した。当時、大手企業の中には「飲み会予算」を使い切れずにいるところが少なくなかった。そこで、「居酒屋で集まるのはダメだがZoom飲み会なら実施していい」という企業向けに、社員の自宅住所リストをもらい、指定日に全国の社員宅へ同じセットを届けるシステムを完成させた。時間になると社員がZoomでつながって乾杯する仕組みで、注文が次々と入った。
コロナ禍でも黒字、その後も成長
この取り組みが実を結び、2021年度、塚田農場おべんとラボはコロナ禍にもかかわらず単体で黒字を確保した。売上高は16.4億円。当時、親会社のAPHDは居酒屋事業の苦戦もあり36億円の営業損失を計上していたが、同社は利益を生み続けた。
その後も業績は右肩上がりで伸び続け、2023年3月期に20.3億円、2024年3月期に24.5億円、2025年3月期に30.8億円、2026年3月期には35.8億円に達した。2022年3月期の16.4億円から4年間で約2.2倍の成長だ。コロナ禍を乗り切っただけでなく、APHDグループの成長を支える存在へと変わった。
創業者も評価、価格据え置きの背景
2025年11月の2026年3月期第2四半期決算説明会で、APHDグループ創業者の米山久さんは「塚田農場プラス」が利益2億8000万円を計上した一方、APHD単体は1億円だったことに触れ、「この時点で森尾さんには負けていましたが、今期は勝てそうだと思っています」と笑いを交えて語った。代表取締役社長の森尾太一さんはこの時のことを「悪い気はしないです(笑)」と振り返る。
森尾さんは、米山さんが大きなビジョンを描く人だと語る。周囲が「本当にできるのか」と思うような話も多いが、森尾さんは滅多に「無理です」とは言わず、どう実現するか、何が足りないか、どんな順番で進めるかを考え、壮大なアイデアを現実の計画に落とし込むのが自分の役割だと考えている。



