信頼されるリーダーは「わたくし」と名乗る:矢野香氏が説く一人称の効果
信頼されるリーダーは「わたくし」と名乗る

ビジネスシーンで一目置かれるリーダーは、話し方にひと工夫を凝らしている。長崎大学准教授でスピーチコンサルタントの矢野香氏は、その秘訣の一つが「一人称」の選び方にあると指摘する。矢野氏によれば、周囲から舐められないためには、他者と異なる一人称を使うことが有効だという。

「わたくし」がもたらす存在感

矢野氏は、日常的な場面で存在感を高める方法として、自分の呼び方に注目する。日本語の一人称には「わたし」「おれ」「あたし」「ぼく」など多様な表現があるが、リーダーとしての信頼感を表現するなら「わたくし」が最適だと述べる。「わたくし」という響きには重みがあり、自己肯定感が低いと感じる人ほど、あえてこの一人称を使うことで内面から変化が生まれるという。

矢野氏は「言葉は内面を映すだけでなく、内面をも形作る」と説明する。例えば、「わたくし」と言いながら乱暴に歩くのは不自然であり、自然と背筋が伸び、歩き方や座り方、物の扱い方まで整えようとする。人は使う言葉にふさわしい自分であろうとするため、振る舞いが変わり、周囲の接し方も変化する。「わたくし」と名乗る人に軽く馴れ馴れしい態度を取ることは難しくなるのだ。

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一人称を変えた実例とその効果

矢野氏は、一人称を「わたくし」に変えたクライアントの事例を紹介する。ある女性は役員に昇進したのを機に、自分の呼称を「わたくし」に変更した。男性ばかりの役員会で「わたくしどもの部署では……」と発言すると、場の空気が一変したという。声を荒らげたり主張を強めたりしたわけではないが、存在感が際立ち、強いインパクトを与えられたと彼女は語った。矢野氏は「自分をどう名乗るかで、その場での立ち位置が決まる」と強調する。

ただし、矢野氏は場面によって一人称を変えないことが重要だと注意を促す。「今日は『わたくし』、明日は『おれ』、友達といる時は『ぼく』」というように揺れると、印象の揺れにつながる。10年後の自分をイメージし、少し背伸びをして「わたくし」と名乗り続けることが推奨される。友人とのランチで「わたくしはコーヒーで」と言うのは最初は気恥ずかしいかもしれないが、言葉は習慣であり、続ければ違和感はなくなるという。

「わたくし」がもたらす品格と戦略

「わたし」ではなく「わたくし」というたった一音の違いが、品格を一段引き上げる力を持つ。矢野氏はこれを「セルフ・パペット」の実践と呼び、言葉から人格を設計する手法だと説明する。自分の呼び方は一種の「宣言」であり、周囲に対して自分をどう扱ってほしいかを先に示す戦略でもある。「わたくし」と名乗ることで、相手に軽く扱われることを防ぎ、自然と敬意を引き出せるのだ。

矢野香氏の著書『いい人で終わらないリーダーは「決めてから話す」 信頼される話し方の本質』(大和書房)では、さらに詳細なテクニックが紹介されている。同書は、リーダーとしての信頼構築に役立つ実践的なアドバイスを提供している。

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