Netflixが問題定義したことで世界的に注目された「ブリリアント・ジャーク」という概念。個としての成果は優秀(Brilliant)だが、組織やチームを疲弊させる嫌な人(Jerk)を指す。本稿では、『ブリリアント・ジャーク 静かにチームを壊す人たち』(著:沢渡あまね、伊達洋駆)から、周囲が彼らを受け入れ許してしまう心理的メカニズムを紹介する。
なぜ、彼らは許されてしまうのか
職場における「優秀だけど嫌な奴」――ブリリアント・ジャークの有害な振る舞いを、私たちはなぜ「仕方がない」と受け入れてしまうのか。そこには、人が集団生活を営むうえで避けられない心理的メカニズムが働いている。
第一のキーワードは「特異性信頼」だ。これは集団への貢献で貯まるポイントのようなものである。人は集団の目標達成に貢献したり、期待に応える行動をとったりするたびに、「周囲からの信頼」というポイントを獲得する。「今回のプロジェクト成功は彼のおかげだ」「いつも頼りになるなあ」と評価されることでポイントが貯まり、規範から少し外れた行動をとっても、「あの人はこれまで貢献してきたから」と大目に見てもらえるようになる。
評価エラーを引き起こす「能力」
しかし、この特異性信頼が誤った方向に働くことがある。特に、個人の能力が突出している場合、周囲はその能力に過度に依存し、行動の有害性を見過ごしがちだ。例えば、売上を常にトップに上げる社員が、同僚に対して侮辱的な発言を繰り返しても、「結果を出しているから仕方ない」と許容されるケースがある。これは評価エラーであり、組織全体の士気を低下させ、長期的には生産性を損なう。
それは本当に「ジャーク」か?
一方で、安易に「ジャーク認定」することの危険性も指摘されている。ある人物の行動が本当に有害なのか、それとも単なるコミュニケーションの違いや文化の違いによるものなのか、慎重に見極める必要がある。特に、多様性が重視される現代の職場では、異なる価値観や働き方を持つ人々をすぐに「ジャーク」とレッテル貼りするのは避けるべきだ。
安易に「ジャーク認定」しない
ブリリアント・ジャークへの対処として、著者らは「特異性信頼の正しい使われ方」を提案する。つまり、過去の貢献を否定するのではなく、行動の改善を促すフィードバックを適切に行うこと。また、組織として評価基準を明確にし、成果だけでなくプロセスやチームへの貢献も評価する仕組み作りが重要だ。Netflixがこの概念を提起した背景には、持続可能な組織文化の構築という課題がある。
結局のところ、ブリリアント・ジャーク問題の核心は、「優秀さ」と「協調性」のバランスにある。個人の能力を尊重しながらも、組織の健全性を損なわないためのルールと対話が不可欠である。



