ホンダの三部敏宏社長(65)は読売新聞の単独インタビューで、北米市場での生産体制強化に向け「もう一つ生産拠点がいる」と述べ、新工場建設を含む8か所目の拠点設置に意欲を示した。北米はホンダの世界販売の4割超を占める最大市場で、昨年度の販売台数は160万台に上る。現在の7拠点の年間生産能力は計167万台で、ほぼフル生産状態にある。三部社長は「バッファー(余裕)を持たないと挽回生産ができない」と指摘し、増産余地の拡大が必要との認識を示した。
EV開発中止の背景とHVへのシフト
ホンダは2026年3月期に上場以来初の赤字を計上した。米国で投入予定だったEVの開発を3月に中止し、生産設備の減損損失が響いた。三部社長は「米国ではEVの時代は5年は来ない」と述べ、バイデン前政権の厳しい排ガス規制に対応するリスクがあったが、トランプ政権下でEV購入補助が廃止されたことを受けて「無理して売り続けると赤字が累積する。避けようがなかった」と説明。一方で「次世代EVの研究開発は続けている」とし、温暖化対策への責任を強調した。
当面はHVを四輪事業の柱に据える方針で、「30年まではHVが柱という方針は変わっていない。コストは下がるが性能は上がるHVを出していく」と述べた。北米ではシビックやアコードのHVが好調で、2029年には燃費性能を1割以上向上させた大型HVの発売も計画している。
中国市場での苦戦と協業戦略
中国での販売台数はピーク時の2020年から6割減少。三部社長は「日本の視点で開発した車を中国に持ち込み痛い目にあった」と振り返り、現地技術を活用する方針を示した。中国メーカーのコスト競争力が業界標準になりつつある中、「中国との勝負を避けた時点で負けたことと同じ」と述べ、合弁事業など中国との連携を継続する考えを明らかにした。
日産自動車や三菱自動車とのSDV(ソフトウェア定義車両)分野での協業については「中国勢に対する戦い方として有効だ。個社よりは圧倒的な競争力がある」と評価。資本関係にとらわれず、自動車業界に緩やかなグループ形成が進むとの見通しを示した。
日本市場の立て直しと新価値創造
5月に日本を北米と同列の重点市場に設定した理由について、三部社長は「軽自動車と小型ミニバンの会社と言われている。そこを変えたい」と説明。自動運転技術を安価な小型車にも搭載し、「高齢者が移動の自由を確保できる新しい価値を作り、立て直したい」と述べた。具体的には、ヴェゼルから自動運転技術を搭載する計画で、踏み間違いや逆走防止が高齢化社会の解決策になると期待する。
四輪以外の事業戦略
ホンダは総合モビリティカンパニーを掲げ、空飛ぶクルマ「eVTOL(電動垂直離着陸機)」の米国初飛行を実現。三部社長は「今やらないと将来、機体にホンダのロゴが描かれている世界観にはならない」と強調した。ロボット分野では人型ロボット「ASIMO」以来の開発を継続し、フィジカルAIに重要な「手のロボット」を事業軸とする方針を示した。



