世界的な電気自動車(EV)シフトの加速により、エンジンやトランスミッションなどの内燃機関部品に強みを持つ日本の自動車部品メーカーは、かつてない変革の岐路に立たされている。従来のビジネスモデルが通用しなくなる中、各社は独自技術で差別化を図り、生き残りを模索している。
エンジン部品の需要減少、新たな収益源の開拓急務
EVではエンジンが不要となるため、ピストンやバルブ、燃料噴射装置など、エンジン関連部品の需要は長期的に減少することが確実視されている。日本貿易振興機構(JETRO)の報告によれば、2030年には世界の新車販売に占めるEVの割合が約30%に達すると予測されており、部品メーカーにとっては収益構造の抜本的な見直しが急務となっている。
例えば、エンジンバルブで世界トップシェアを誇るリケンは、水素エンジン向け部品の開発を加速。同社の担当者は「内燃機関技術の延長線上で、水素社会の実現に貢献できる」と述べ、既存技術の応用による新市場開拓を目指す。
モーター・インバーターなど電動化部品へのシフト
一方、電動化に伴い需要が拡大しているのが、モーターやインバーター、バッテリー関連部品だ。日本電産はEV用駆動モジュール「E-Axle」の量産を強化し、2025年度までに売上高1兆円を目指す。また、デンソーはSiC(炭化ケイ素)パワー半導体を用いたインバーターの生産能力を増強し、航続距離の延長に貢献する。
さらに、従来はエンジン部品が主力だった企業も、電動化部品へと事業ポートフォリオを転換しつつある。例えば、ピストンメーカーの日本ピストンリングは、EV用の冷却部品や軽量化素材の開発に注力。同社の技術本部長は「ピストンリングの精密加工技術を活かせる分野に進出する」と語る。
軽量化・熱マネジメント技術で生き残り
EVではバッテリー搭載による車両重量増加が航続距離に影響するため、軽量化技術が重要となる。この分野では、アルミニウムや炭素繊維複合材料(CFRP)の加工に優れた日本の部品メーカーが強みを発揮する。例えば、アイシンはアルミダイカスト技術を活かしたEV用モーターケースを開発し、軽量化と放熱性を両立。また、豊田合成はCFRP製のバッテリーパックカバーを量産し、テスラなどに供給している。
熱マネジメントもEVの性能を左右する重要技術だ。バッテリーの過熱防止や、ヒートポンプ式エアコンによる省電力化が求められる。デンソーやサンデンは、ヒートポンプシステムや冷却モジュールの開発でリードしており、欧米のEVメーカーからも受注を獲得している。
ソフトウェア・半導体分野への投資拡大
EVの高度化に伴い、車両制御ソフトウェアや半導体の重要性が増している。日立Astemoは、統合制御ECU(電子制御ユニット)やADAS(先進運転支援システム)向けソフトウェアの開発を強化。同社のCEOは「ハードウェアとソフトウェアの両面でソリューションを提供する」と述べ、従来の部品サプライヤーからシステムインテグレーターへの脱却を目指す。
半導体分野では、ルネサスエレクトロニクスがEV向けMCU(マイコン)やパワーマネジメントICの開発に注力。さらに、ソニーグループとホンダの合弁会社「ソニー・ホンダモビリティ」は、EVに搭載するエンターテインメントシステムやセンサー技術の開発を進めるなど、異業種との連携も活発化している。
M&Aや提携で規模拡大、競争力強化
厳しい競争を勝ち抜くため、M&Aや提携による規模拡大も進む。2023年には、デンソーと日本電産がEV駆動モジュールの共同開発で合意。また、住友電気工業はフランスのEV部品メーカーを買収し、欧州市場でのプレゼンスを高めている。こうした動きは、電動化対応に必要な投資負担を軽減し、技術開発を加速する狙いがある。
一方、中小部品メーカーは生き残りが厳しい。経済産業省の調査によると、自動車部品サプライヤーの約3割が、電動化対応に必要な技術や資金を確保できていないと回答。政府は「グリーンイノベーション基金」などを通じて支援を強化する方針だが、業界再編は避けられないとの見方が強い。
生き残りをかけた戦略、業界地図が激変
日本の自動車部品産業は、エンジン関連で培った精密加工技術や品質管理能力を強みとしてきたが、EVシフトはその前提を覆す。生き残りには、電動化・軽量化・ソフトウェア化という3つのトレンドに対応した技術開発と、事業構造の大胆な転換が不可欠だ。
「100年に一度の変革期」と言われる自動車業界。日本の部品メーカーが伝統の技術力をどう進化させ、新たな競争領域で存在感を示すか、その成否は日本経済全体にも影響を及ぼす。今後も業界再編や新技術の動向から目が離せない。



