戦後最長の景気回復も実感乏しく 指標と肌感覚の乖離が問う経済の在り方
戦後最長の景気回復も実感乏しく 指標と肌感覚の乖離

日本経済は、戦後最長の景気回復局面を更新する可能性が高まっている。内閣府は月例経済報告で「緩やかな回復」との判断を維持しており、コロナ禍で景気が底を打った2020年5月以降の景気拡張局面が続いているとすれば、2026年6月には73カ月に到達する。この局面は「コロナ後景気」と呼ばれる。

これは2002年1月(谷)から2008年2月(山)まで続いた「いざなみ景気」に並ぶ長さであり、直近の景気回復局面で戦後2番目の長さとなった「アベノミクス景気」(2012年11月〈谷〉~2018年10月〈山〉の71カ月)を上回ることになる。ただし、景気循環の判定は事後的に行われる。実際、「アベノミクス景気」は2018年10月が景気の山と認定されたが、その判断は2020年になってからであった。景気動向指数研究会は景気動向指数だけでなく、GDPや短観、雇用統計なども総合的に勘案して景気の山谷を判断するため、リアルタイムで景気局面を判定することは容易ではない。

今回も「実感なき景気回復」

もっとも、こうした景気回復を実感している人は決して多くないだろう。過去にも「実感なき景気回復」と呼ばれた局面は存在した。特に「いざなみ景気」は期間こそ長かったが、多くの家計に景気回復の恩恵が届いていないとの批判があった。「アベノミクス景気」も同様である。円安によって企業業績は回復したものの、恩恵は大企業中心であり、トリクルダウンが不足していたという評価が多い。

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今回も状況は似ている。家計の景況感を示す消費者態度指数は低迷しており、街角の景況感を示す景気ウォッチャー調査も弱い動きが続いている。一方で、景気動向指数(CI一致指数)は改善傾向を示している。つまり、「景気統計は回復を示している」が「家計の実感は改善していない」という乖離が生じている。

実感がないのは景気動向指数の作成方法に由来するか

大和証券のチーフエコノミスト、末廣徹氏は、この乖離の一因として景気動向指数の作成方法を挙げる。CI一致指数は生産や出荷、雇用など供給側の指標を多く含むため、需要側の実感とずれやすいという。実際、消費者態度指数や景気ウォッチャー調査は家計や街角の実感を直接反映するが、これらは景気動向指数の構成には含まれていない。

さらに、末廣氏は「今回は一段と実感を得にくい」と指摘する。その理由の一つが人手不足と求人倍率の逆説的な動きだ。有効求人倍率は低下傾向にあるが、これは労働需給が緩和したのではなく、人手不足が深刻化して企業が求人を出しても人が集まらず、求人自体を抑制しているためだ。実際、完全失業率は低水準で推移しており、労働市場は引き続き逼迫している。

「価格転嫁で利益が増えていれば問題ない」と言えるのか

企業収益は改善しているが、その原資は価格転嫁によるものが大きい。末廣氏は「価格転嫁で利益が増えていれば問題ない」と言えるのか、と疑問を投げかける。価格転嫁が進む一方で、実質賃金は上がっておらず、家計の購買力は低下している。企業の利益拡大が家計に還元されなければ、景気回復の実感は得られない。

また、ゾンビ企業が淘汰され「経済合理的な社会」を望むのかという問いもある。生産性の低い企業が退場することで経済全体の効率は上がるが、その過程で雇用や所得が失われる。景気回復の実感なき背景には、こうした構造変化が家計に負の影響を与えている可能性がある。

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指標と肌感のズレが問う「どんな景気を望むのか」

景気統計が示す回復と、家計の実感との乖離は、経済政策の方向性に根本的な問いを投げかけている。単にGDPや生産が拡大すればよいのか、それとも家計の所得や生活実感の改善を重視すべきなのか。末廣氏は「どんな景気を望むのか、国民的な議論が必要だ」と提言する。

戦後最長の景気回復局面を目前に、日本経済は「実感なき回復」という課題に直面している。指標と肌感覚のズレを解消するには、企業から家計への所得移転や、労働分配率の向上、持続可能な賃上げなど、需要側に立った政策が求められる。