おいしさと希少さから「黒いダイヤ」「マグロの王様」とも呼ばれるクロマグロ(ホンマグロ)。上物はキロ1万円を超えることもある高級魚の代表格だが、今、漁の現場では「厄介者」扱いで、網にかかっても捨てられているという。いったい何が起きているのか。
数千匹かかっても、水揚げは数十匹
「マグロが暴れ、網に穴があいてしまうことも。まるで『外敵』だ」と、定置網で魚を取る東北地方の漁協の関係者は嘆く。地元の定置網に数千匹ものマグロがかかったというが、実際に水揚げできたのは数十匹にとどまった。残りは網を破って逃げるか、あるいは漁師が意図的に海へ戻したという。
理由は、クロマグロの漁獲枠が厳しく制限されているためだ。国際的な資源管理の下、日本には年間の漁獲可能量が割り当てられており、枠を超えると罰則の対象となる。そのため、漁師は枠を使い切ると、たとえマグロがかかっても水揚げできず、生きたまま放流するか、死んでしまったものは廃棄せざるを得ない。
漁獲枠の硬直性がもたらす矛盾
この状況は、漁獲枠の配分方法に起因する。日本の漁獲枠は、過去の漁獲実績に基づいて漁業者ごとに割り当てられるが、一度割り当てられると変更が難しく、資源が増えても柔軟に対応できない。国際的な資源評価では、クロマグロの資源量は回復傾向にあるとされるが、枠が増えなければ漁師は獲りたくても獲れない。
「せっかく資源が回復しているのに、枠が足りずに捨てるのはもったいない」と、別の漁業関係者は話す。消費者にとっては、供給が限られるため価格は高止まりし、お手頃価格での提供は難しい。
お手頃価格実現への道筋
クロマグロの価格を下げるには、漁獲枠の拡大が不可欠だ。しかし、国際的な合意に基づく資源管理の枠組みを変更するのは容易ではない。また、国内では漁業者間の利害調整も課題となる。
一方で、養殖技術の進展も期待される。完全養殖のクロマグロはすでに市場に出回っているが、コストが高く、天然物との価格差は縮まっていない。研究開発が進めば、将来的には価格低下につながる可能性がある。
井東礁記者と山田暢史記者は、この問題を「食料安全保障」や「ビジネス全般」の観点から追跡している。今後の制度改革や技術革新が、クロマグロを再び「黒いダイヤ」として輝かせるか、それとも庶民の味方にするか、注目される。



