京都大学の研究チームは、iPS細胞(人工多能性幹細胞)から作製した心筋シートを重症心不全患者に移植する臨床研究において、移植後1年間の安全性が確認されたと発表した。心機能の改善も認められ、再生医療の実用化に向けて大きな前進となった。
臨床研究の概要と結果
この臨床研究は、2019年から開始され、拡張型心筋症や虚血性心筋症などによる重症心不全患者10人を対象に実施された。患者の腹部の皮下組織から採取した細胞をiPS細胞に初期化し、心筋細胞に分化させてシート状に加工。それを心臓の表面に貼り付ける方法で移植を行った。
移植後1年間の観察期間中、重篤な副作用や腫瘍形成は確認されず、安全性が示された。また、心臓のポンプ機能を示す左室駆出率(LVEF)が平均で約5%改善し、患者の症状も軽減した。
専門家の見解と今後の展望
研究責任者の京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の教授は、「今回の結果は、iPS細胞を用いた心臓再生医療の実用化に向けた重要なステップ。今後はより多くの患者を対象にした治験を計画している」と述べている。
心不全は日本人の死因の第2位であり、患者数は約120万人と推定される。既存の治療法では心臓移植が唯一の根治的治療だが、ドナー不足が深刻な課題となっている。iPS細胞由来の心筋シートは、拒絶反応が少なく、大量生産が可能なため、新たな治療法として期待されている。
国内外の動向
日本では、iPS細胞を使った再生医療の臨床研究が複数進行中。大阪大学ではiPS細胞由来の角膜シートの移植、慶應義塾大学では脊髄損傷への治療などが行われている。海外でも、米国や中国で心筋シートの臨床試験が進められており、国際的な競争が激化している。
今回の結果は、2026年7月に米国の医学誌「ネイチャー・メディシン」に掲載された。研究チームは、2027年にも企業と連携した治験を開始し、5年以内の実用化を目指すとしている。



