自由診療クリニックで行われる再生医療において、死亡事故を含む健康被害が相次いで発生している。2025年8月、東京都中央区のクリニックで、自身の脂肪から採取した幹細胞を培養し点滴投与する治療を受けた女性患者が、投与中に急変し死亡した。厚生労働省は再生医療安全性確保法(安確法)に基づき、クリニックに治療の一時停止を命じ、細胞を培養した埼玉県内の企業施設にも製造停止を命じた。患者死亡による緊急命令は同法施行以来初めてである。
2026年3月には、同区の別のクリニックで同様の治療を受けた女性患者が死亡し、厚労省は再び緊急命令を発出。クリニックと京都市内の細胞加工施設に一時停止を命じ、韓国ソウル市内の施設にも出荷停止を要請した。これら2件の死亡事故を含め、患者の感染症や体調不良、無届けの実施、計画外の治療提供などで、2024年以降だけでも少なくとも8件の行政処分が行われている。
自由診療による再生医療のリスクが国内で初めて大きくクローズアップされたのは、2010年9月の京都市「京都ベテスダクリニック」での死亡事故だ。同クリニックでは韓国企業で培養した細胞を日本に移送し患者に投与しており、2026年3月の事故と構造が類似する。ベテスダクリニック事件は2013年5月に毎日新聞がずさんな実態を報じ、同年11月の安確法制定の契機となった。発生から15年、法規制後にもかかわらず同様の死亡事故が繰り返されている事実に驚かされる。
また、再生医療をうたって培養上清やエクソソームを投与するクリニックも増加している。培養上清は幹細胞培養後の培養液の上澄みで、成長因子やエクソソームを含む。細胞そのものを投与しないため安確法の対象外だが、健康被害が発生しており、自由診療における再生医療の課題は山積みだ。
日本再生医療学会は、こうした状況を受け「検証型診療」の概念を提唱している。検証型診療とは、治療の安全性と有効性を科学的に検証しながら行う診療形態で、エビデンスの確保を目的とする。しかし、自由診療では患者負担で行われるため、厳格な臨床試験の実施が難しく、学会の提唱がどこまで実効性を持つかは不透明だ。
厚生労働省は法改正に向けた検討を開始しており、規制強化の動きが加速している。再生医療の安全性確保と患者保護の両立が求められる中、学会と行政の連携が鍵となる。



